憧れの田舎暮らしでハンドメイド生活を満喫

荒井 正俊・陽子さん

今年2月、大雪が降ったとき、各地で孤立集落がニュースになり、その被害の大きさに胸を痛めた人も多かったことだろう。そして、千葉県の南部に位置する大多喜町でも、集落へ通じる道の崖崩れにより、停電で5日間電気のない暮らしをしいられた人達がいた。「釣りで使っていたバッテリーがあったので、最低限の明かりは確保できました。アウトドア好きが功を奏しましたね」と、そんな危機も楽しんでしまっていたのが、いすみ鉄道の大多喜駅からさほど遠くない大多喜町横山に住む荒井正俊さん(49)と陽子さん(50)ご夫婦だ。
 おふたりが田舎暮らしに憧れて東京から大多喜町へ移住してきたのは9年前。現在は陽子さんがフェルトボール、正俊さんが木片でアクセサリーを作り、イベントなどに出店。家の一間をギャラリー『MOON CHILD』として公開し、アクセサリー作りの体験も行っている。神奈川県横須賀市と鎌倉市出身のふたりは、共稼ぎで週末には釣りやキャンプを楽しむどこにでもいる普通のご夫婦だった。しかしバブルがはじけ、「勤めていた会社の雰囲気がどんどん悪くなっていき、物を作りたくてコンピューター系の会社に入ったのに、物を作らなくなって、もう東京にいてもしょうがないかなと思って退職しました」と話す正俊さん。退職後は物作りの夢を実現するため、飛騨にある木工専門学校のサマースクールに参加し、その後、独学で家具製作の勉強をした。
 また、約10年、仕事をしながらうつ病と闘っていた陽子さんも早期退職の道を選び、「もともとセカンドハウス的な家がほしいね」と話していたふたりの田舎暮らしを実現するための家探しが始まった。家具作りをするので音が出ても迷惑にならず、自給自足も視野に入れ畑が作れる土地があり、そして住める家があること。それを条件に約半年間、関東近郊を見てまわり、最後に決めたのが10世帯ほどが住む山の中の家だった。
 長い間住む人のいなかった家は痛みがひどく、母屋の裏に作られた土間にある台所はトタンで囲まれ、風呂は外だった。「リフォームは自分たちでやろうって、甘く考えていました」と笑う正俊さん。設計を陽子さん、工事は正俊さんとふたりだけでのリフォームが始まった。陽子さんが笑いながら当時を振り返ってくれた。「その間は毎日がイベント状態でサバイバルでした。まるでキャンプ生活で、流しは外、お風呂も庭の物置に簡易シャワーを取り付けてしのいでいました。さすがに冬は近くの温泉に行っていましたけど」
 自前でのガス工事は難しいとオール電化に。そのため正俊さんは電気工事士の資格を取り、IHのクッキング台やシンクはネットオークションなどで格安で手に入れ、2年かけてリフォームを完成させた。「屋根や壁、畳の部屋も床が抜け落ちそうなところもあって、まだ手を入れるところはあるんですけど」と話す正俊さんだが、リフォームが一段落したところで、「本来やりたかったハンドメイドで物を作ることを始めました」と陽子さん。
 もともと編み物や手織りを趣味で楽しんでいた陽子さんが、羊毛を丸めて作るフェルトボールでアクセサリーを制作し、イベントに出店するようになると、正俊さんも手元にあった木切れで月をかたどったアクセサリーを作り合流するようになった。すると仲間も増え、出店場所も御殿場、笠間、水戸と広がっていった。音楽仲間もでき、東京にいたころから楽しんでいたバンド活動も、以前、本紙でも紹介した『ふさふさ本舗』というバンドに参加し、再開した。
 正俊さんは、「最終的にはハンドメイドで生活できたらと思っています。将来的には本来やりたかったイスやテーブルなどの家具作りにシフトしていって、それを出店するためのクラフトのイベントとかももっと増やしていきたいですね」と話す。アクセサリー作りのかたわら近くの福祉作業所でお菓子作りを教えている陽子さんは、「収入の柱はいくつかあっていいと思うんです。ただ、やりたいことをやるためにこっちの生活を選んだので、無理はしたくないんです。おかげでうつもすっかりよくなって、もう薬を飲むこともなくなりました」。辛いことや大変なことはひとつもないと話すおふたり。ただ1日24時間では足りなく、「やりたいことがいっぱいあって、時間がもっと欲しい」という。

問合せ MOON CHILD 荒井さん
TEL 0470・82・5163
http://moonchild.sblo.jp/
(ギャラリー開放日は問い合わせを)

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