日本の伝統手芸 刺し子

昔から日本各地にさまざまな形で残る刺し子。かつて北国では寒さで木綿が育たたず、農民は繊維が太く粗い麻を大切に補強し、温かさを保とうと刺し子をし、美しい模様を創り出したという。布を縦横斜めと縫い進んで作る身近な自然や風物をお手本にした刺し柄は数知れず、津軽のこぎん刺し、南部地方の菱刺し、庄内刺し子と三大刺し子と呼ばれる東北地方独特の技法になった。農作業の合間に女性たちが麻の葉模様は魔除け、亀甲は吉祥、七宝は豊かさなど一針一針に願いを込め、長着や半纏などを仕立てたのだろう。
 刺し子を作る若岡富子さん(千葉市在住、72歳)は市川市に住んでいた36年前、近所にあるお茶販売店の60代になる女性が店番をしながら作った端正な刺し子の暖簾を見て虜になったという。当時、娘たちは2歳と8歳。子どもを連れて習いに行き、4年間で図案描きをひと通り覚えると「縫っているときが幸せ」と一人で作り続けた。「朝早くから朝食の時間を忘れるほど熱中し、主人に叱られたこともありました」と笑って話す。完成品はほとんど人にあげてしまい、ここ10数年間は1年に1、2回東京の友人の工房や新潟で作品展を開く程度で人に教えたことはなかった。
 ところが2012年4月に知り合いの紹介で大網白里町の『アートエディタースペース』(トップマート隣)で開いた展示会で体験教室を開くと「習いたい」という申し出が何件も。オーナーの伊藤さんに勧められ、2カ月後には月1回第2月曜日1時から同スペースで教えることになった。
 大作は完成までに2、3カ月かかるが、ランチョンマット、袋物などの小物なら手軽に取り組める。仕上がった複雑な柄を見ると難しそうだが、運針ができれば初心者でも簡単に縫えるそうだ。方眼や斜方眼の線を基本にチャコペンシルと定規を使って模様を写し、縫うだけ。着古した洋服や破れたジーンズもワンポイントや補修をほどこしオシャレにグレードアップできる。
 取材日、茂原市や御宿町などから通う裁縫好きの女性たちが吊るし雛や古布についておしゃべりをしながら図案を描いていた。生徒の多久和さんは教室で作ったタペストリーを市原市の春の工芸作家展に出品し賞をいただいたという。藍木綿に木綿糸を使うのが基本だけれど、「今は藍染を手に入れるのが大変」。希望があれば三重県の木綿専門店から布を、京都から刺し子用の草木染の糸を取り寄せる。
 若岡さんはドイツに住む次女の知り合いが営む陶芸店にも作品を置いている。コースターやポーチが良く売れ好評だそうだ。「西洋から伝わったパッチワークやキルトを縫うのも楽しいけれど、日本の暮らしのなかから生まれた美しい手仕事を職人のように作り続け残したい」とにこやかに語った。

問合せ アートエディタースペース
TEL 0475・73・5929

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1.  今やサーファーの聖地となった長生郡一宮町には、上総国一ノ宮の『玉前神社』(たまさきじんじゃ)が長い歴史と共に鎮座する。ご祭神は神武天皇の…
  2. ◆一席 若者の人生曲げる闇バイト 大網白里市 渡辺光恵 ・世渡りは適度に自説曲げ伸ばす 東金市 伴里美 …
  3. 【写真】スパリゾートハワイアンズ・ウォーターパーク ●千葉県立美術館開館50周年記念特別展「浅井忠、あちこちに行く~むすばれる人、つながる時…
  4. 【写真】五井小の歴史をたどるスライドショーの冒頭、紹介する子どもたち  昨年と今年は、創立150周年を迎える小学校が多数ある。1872年の…
  5.  冬の使者と呼ばれるハクチョウ。シベリアなどから北海道を経由し、冬鳥として日本へ広く渡って来る。近年、地球温暖化の影響で、繁殖期と越冬期が暖…
  6. 【写真】坂下忠弘  来春3月2日(日)、市原市市民会館・小ホールで開催される『いちはら春の祭典コンサート2025』。市原市…
  7. 【写真】千葉県立中央博物館・御巫さん  11月24日(日)まで、千葉県立中央博物館で開催されている『二口善雄 植物画展』。…
  8. 【写真】川口千里(左)、エリック・ミヤシロ  日本を代表するトランペット奏者、エリック・ミヤシロを迎え、いま最も注目を集め…
  9. 【写真】うたと語り「今、この町でこの歌を」  毎年、夏に開催される『市原平和フェスティバル』。平和への祈りとメッセージが込…
  10.  今回は「映画音楽」特集の第1回。良い映画では必ず、音楽・主題歌が感動を与えてくれます。テレビCMでも使われる名曲もあり、何処かで聞いたこと…

ピックアップ記事

  1.  今やサーファーの聖地となった長生郡一宮町には、上総国一ノ宮の『玉前神社』(たまさきじんじゃ)が長い歴史と共に鎮座する。ご祭神は神武天皇の…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る