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人々の切なる願いが込められた『お飾り』
- 2016/1/29
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2月7日まで睦沢町立歴史民俗資料館で開催されている特別展『お飾り―神仏への祈りのかたち』。2階の展示スペースに飾られた資料計69点は、芝原人形4代目作家の千葉惣次さんが長年に渡り収集、所蔵を続けていたもの。そして、同館スタッフの山口文(あや)さんが、千葉さんと共に宮城・岩手・福島の東北3県を3泊4日で訪れ、10の神社を巡って新たに入手した貴重なお飾りである。「お飾りはほとんどが和紙でできています。神社の宮司が氏子の幸せを願って作られます。受け取った氏子は、新年に神様に家に来ていただけるよう、居住まいを正して神棚などに飾ります」と説明する山口さん。実際に目の前で切る宮司の姿を見て、現地で聞いたお飾りの存在感を学んできたからこそ、言葉の節々に熱がこもる。展示をする際も、繊細で細かな紙を傷つけないように注意しながら、真っ直ぐと綺麗に見えるよう数ミリ単位で気を配った。
県や神社によって、お飾りの形や大きさはそれぞれだ。大きいものは高さ2.5mと見上げるほど。米俵の下に鏡餅やお神酒があるのは農家へ、宝船や巾着、打出の小槌といった富の象徴は商家へ。宮司が氏子の家にたくさんの福が舞い込むようにという願いが如実に表れている。主に切り取られるのは、鯛や俵、巾着や扇の形。そして、恵比寿様や大黒様などの七福神、金や末広がりを表す福の象徴。たとえモチーフが同じであっても宮司によって出来上がりが全く異なる。それは千葉県内でもお飾りが各地で異なるように、東北各地の神社でも独自の文化をはぐくんできたからだ。
山口さんはそんな現状を、「現地では日常に浸みこんだ慣習ですが、切り手がいなくなればお飾りも廃れてしまいます。切り手がいなくなっても、いざ復興させたいという若手が現れた時に、それが可能になるように今できる保存を万全にできれば」と危惧する。ただ、「紙の保存は、劣化が激しく難しいです。独特の文化ではありますが、知られていないだけで日本のあちこちに点在している技術ではあると思うんです。お飾りも素敵ですが、何百年と続いてきたのは文化だけでなく、神社と氏子の深い関係性。みなさんの地域にある神社にも目を向け、大切にしていただけたら」と館長の久野一郎さんは話す。
ライトに照らされて影を生むお飾りは、神仏の祈りとしてだけでなく、同館内でまるでアートのように飾られている。細部までよく見ようと、ガラスに額を張りつけて目を凝らす人もいるのだとか。綺麗!の一言では終わらない、幸福への願いをお飾りから感じ取れるのではないだろうか。休館は毎週月曜日。開催期は9時から16時30分まで無料で観覧可能。
問合せ 睦沢町立歴史民俗資料館
TEL 0475-44-0290