人と違うことに挑戦する

人と違うことに挑戦する
歴史民俗研究家 安藤 三佐夫さん

 夷隅郡御宿町在住の歴史民俗研究家であり作家の安藤三佐夫さん(77)は、1年11カ月かけてこの度『命燃ゆー養珠院お万の方と家康公(仮題)』を書き上げた。本作品はお万の方を題材とした歴史小説であるが、執筆するにあたり安藤さんは多くの資料を研究した。「お万の方は家康の側室である程度知名度のある方。とはいえ、歴史書や文献における資料は本当にごくわずかで、郷土資料を読みあさって調査をした。本拠地の静岡に問い合わせてみても、専門家でさえ全く分からないという回答がほとんどだった」と安藤さん。
 しかし、健康的な笑顔を浮かべてお万の方について語る安藤さんの顔に、苦労の色はない。「日蓮宗だったお万の方。寺だけでも300カ所に資金援助をし、約100カ所を建立した。男児を2人ももうけたことで、大奥では重視される存在と崇められ資金は豊富にあったようだ。私は、彼女ゆかりの寺をあちこち回り、僧侶と直接話して生の声を聞いた。小説には本当にあったと思われるエピソードと、関係者の話を繋げ、想像を膨らませて描いたフィクションの両方がある」と書き上げるまでの期間を思い出すように、楽しげに話す。 所々にショッキングな部分も織り交ぜているというのだから面白そうだ。 
 1936年に市原市内田村島田で生まれた安藤さんは、千葉市の小、中学校の教師や八千代市内の大学の教師を務めた。また、教育委員会指導課や千葉市内の公民館館長としても勤務した経験を持ち、専門は国語教育、文学、詩、読書教育の理論構築と実践など。千葉県内の民話の採集や編集、房総のふるさと言葉の研究に取り組んでいる。『ふるさと民話』(全七冊 鳩の森文庫)、『千葉のむかし話・伝説・歴史ものがたり』(日本標準社)、『写真集、千葉県下の昭和史』全10巻(千秋社)、『房総ふるさと歳時記』(ふるさと文化研究会)などなど、約100冊余の編著書があり、自宅リビングの一角にある本棚が埋められている。
「その中でも、教師時代に書いた『先生、少しは反省せよ(1979)』は衝撃的だったのかベストセラーになったことも。中学校3年生の担任をしていた時、子ども達とノートを使って交換日記をした。ノートに本音をつづる子ども達の心の葛藤や悩みをまとめた1冊」という通り、安藤さんは自身の経験を確実に糧とし、直接目で確かめることで記録としてきた。今年出版した『千葉の地酒とうまい肴』(彩流社)でも20年かけて回った酒蔵や酒の豆知識、また魚料理を中心とした郷土料理を載せている。「毎日が驚きもあれば、面白いこともある。若い頃は人と違うことをしようとしてばかりいた。人がやっていないことに挑戦して、自分の人生を歴史に何か残していかないと意味がない」と強く語る安藤さんは、教員時代には壁にぶつかったこともあったという。
「教員が集まって会議をすることが月に1度くらいあるが、テーブルを囲ってみんなで座る。会議とはいえ座席さえもが年功序列で、猿山の猿に似ていると異議を唱えたことがある。意見がみな同じなわけがないし、人と違うことをいえば圧力を感じることもあった。でも、誰かが発信しなければ何も変わらない」と続けた。26歳で初めて講演を依頼され、子どもに本を読ませる読書教育の必要性について説いた。
 校長時代はお昼の校内放送で自らマイクを握って自由に子ども達に話していると、いつの間にか近所の家々の母親までが窓を開けて話を聞くようになった。「正論であれば、みんな聞いてくれる」と話す安藤さんは、「今は千葉に住んでいるのに、千葉のことを知らない人が多い」ことを問題視。NPO法人ふるさと文化研究会の理事長として、生涯学習講座『千葉ふるさと文化大学』を運営している。当講座では、房総の魅力について探訪する内容で、各地の名産品、歴史紹介、神社仏閣など幅広く扱っていて、安藤さんは来年度の企画を考案中だ。年間3~4回の海外へのツアーも行っており、多い時には450人以上の受講者がいたことも。「これからは人間の愛情と憎悪の小説を書いて、書いて、書いて過ごしたい」とさらに胸を躍らせる安藤さんだが、次々と飛び出す計画が途切れることはなかった。

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