養護施設出身の児童の自立を願って

 様々な事情により家庭で生活できない児童が共に暮らす児童養護施設。養護期間を終えた後の児童が社会で生きていくための苦労と孤独感は並大抵のものではない。18歳で自活を強いられる彼らの姿を想像してみてほしい。在園中に高校に通いながらアルバイトで貯めたお金と、退園時に支給される就職支度金を資金にアパートを借りる。光熱費、家賃、食費も全て自分で稼いだ給料で賄う。就職直後の慣れない職場、仕事で疲れて帰ってきても愚痴を聞いてくれる家族はいない。
 安易に収入を得ようと不健全な職業に就いたり、借金を重ねたりする例も珍しくない。そんな児童たちを支援しようと平成24年に有志で立ち上げたのが、長生郡にある児童養護施設、一宮学園の退園児童を支援するための『一宮学園自立支援はじめのいっぽ後援会』だ。会長は長生村在住の浅生隆さん(67)。12年前から営繕作業員として同園で働いている。玄人はだしの木工技術で児童が使う勉強机や椅子を製作したり壊れた家具や建具を修理する傍ら、職員とはまた違ったポジションで児童から悩みを聞くなど心の支えとなってきた。謙虚で優しい人柄、職員や地域の人々からの信頼も厚い。「例え頼れる家庭があったとしても社会に出ればつまずくことがある。わずか18歳で相談相手もいない状況下にいればつまずかないわけがない。多くの方にこの現状を理解していただき、児童達を温かい気持ちで受け入れられる社会を築けたら」と穏やかな表情で話す。
 同会の会員は8名。主な活動は退園児童への心のケア、人・物・金銭支援の呼びかけと定期通信の発行。年末には『ふるさと宅急便』と称し「困難に負けないで」と願いを込めて食料品などを送る。「『ありがとう。仕事がんばるね』などの手紙が届くと嬉しい」。また、親から虐待を受けて入所している児童が多いことから毎年1回、地域の人達を対象に心のふれあいや命の大切さをテーマにした映画を上映。鑑賞後は自由に意見交換ができる語り合いの場を設けている。
 毎年暮れになると、帰る場所のない児童は園に戻ってくる。24歳の男性もそんな1人だった。東京都内できらびやかに働いていると得意げに話していたが、よくよく話を聴くと、職場で受ける暴力が辛くて逃げてきたという。支援に手を尽くした結果、幸いにもよい職場が見つかり、その後の生活を軌道に乗せることができた。職場でのトラブルや生活のやりくりの失敗で助けを求めてくる児童は後を絶たないが、同会事務局の荒木秀子さんは「つまずきが小さなうちに再出発できれば幸い」と明るく笑う。  
 この春から社会人として一歩を踏み出した20歳の女性がいる。退園後、専門学校に進学し保育士の資格を取得。就職も決まり、暮らしぶりの報告と引越しの計画について浅生さんのアドバイスを求めて同園を訪れた。「彼女の場合は母親が工面してくれた入学金と奨学金で進学が出来たが、それでも最終学年の後期の学費が足りず当会から援助をした。退園後の児童の進学例は少ないが、このような成功例を増やしていきたい」と荒木さん。
 多くの児童が誘惑に負け、はまってしまう落とし穴がある。ギャンブルや消費者金融からの借金だ。助けを求めてくるのは男子が多い。一方、実態は定かではないが、女子の性風俗店での就労をうかがわせる噂を耳にするという。風俗店は高収入で住まいも与えられるから生活面で困ることはないのだ。しかし「薬物や暴力と関わる危険性が高い」と荒木さんは危惧する。同会では、同園と協力のもと、退園前に社会での正しい価値観を身につけるための講習会を今年度から行っていく方針だ。先輩の体験談なども交えながら打ち解けた雰囲気で実施することを考えている。
「皆さんからの寄付金は、新生活立ち上げ時の布団のプレゼントや、ふるさと宅急便などに活用させていただいており大変感謝しています」と浅生さん。家賃が払えない状況が続く児童には貸付援助を行い、時間をかけても必ず返済するよう指導している。就職先の紹介といった支援も歓迎しており、物の寄付は自活するのに必要な電化製品、タオルセットなどがありがたいとのこと。
 26年度は9名の児童が同園から巣立っていった。「社会は厳しいだけではなく温かいところでもあるということを、子どもたちに知ってもらいたい」それが、浅生さんの願いだ。

問合せ 一宮学園自立支援はじめのいっぽ後援会 荒木さん
TEL 0475・42・2069
http://hajimenoippo.o.oo7.jp/

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