長柄町から音楽の種を飛ばしたい

演奏するだけのチェリストではありません
ゴーシュ音楽院 大友肇・裕子夫妻

 長生郡長柄町味庄の里山に囲まれ、かつて小さな教会があった丘の上に建つ『ゴーシュ音楽院』。名前は宮沢賢治の童話『セロ弾きのゴーシュ』から付けた。運営するのはチェリストの大友肇さん(45)・裕子さん(46)夫妻。
 「チェロだけでアンサンブルができるほど音域が広いのですよ」とチェロの魅力を語る肇さんは、日本では数少ない常設の弦楽四重奏団『クァルテット・エクセルシオ』の唯一の男性メンバー。ベースとなる肇さんのチェロ、繊細な2本のヴァイオリンとヴィオラの音が絡まり、たった4人でオーケストラにも負けない豊かな音楽を奏でる。「四重奏団は、誰かが主で誰かが従ということはなく、4人が対等な役割を担います」
 結成から23年。「ベートーヴェンを演奏するために楽団を続けているのかもしれません。特に最晩年、病気と闘いながら完成させた弦楽四重奏6曲は、無我夢中で楽譜と向き合っていると作品の持つ圧倒的なパワーに心を揺さぶられます。この感動を聴く人に届けたい」。2000年のイタリアの第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクール最高位をはじめ受賞歴多数。古典作品から現代作品まで幅広く取り組み、国内外で演奏してきた。
 2009年、活動基盤を安定させるため四重奏団では珍しいNPO法人『エク・プロジェクト』を立ち上げ、各地に出向いて「手を伸ばせる距離で聴けるコンサート」も開催。昨年からはリソル生命の森にて、千葉県ゆかりの音楽家とともに『ながらの春 室内楽の和 音楽祭』を開く。音楽を提供する側と受け取る側の相互作用に期待し、「地域に住む演奏家と音楽愛好家、生演奏に触れたことのない人も結び付け、ゆくゆくは国内外の演奏家を呼べる音楽祭に育てたい」と活動する。
 室内楽は演奏を数多くこなしても聴衆の人数は限られる。肇さんを「演奏家として尊敬しています」と全面的にサポートする裕子さんは「演奏会だけでは暮らしていけない時期もありました」と四重奏団を続ける難しさを語る。しかし、「多くのカルテットが消えていくなか、10年を過ぎたころから、4人が必死の思いで続けること自体に価値があると実感しはじめました」
 京都出身の肇さんと熊本出身の裕子さんは桐朋学園大学でチェロを専攻する同級生として出会った。結婚後は八王子市のマンションから都心に出かける暮らし。2005年に子どもを自然の中で育てたいと長柄町に移住し、『おおともチェロ教室』を開いた。「都会は箱ものの生活。今は近所に気兼ねなく、思いきり練習できます」。4人の子どもを育てながら、肇さんは年7080回ほどもある演奏会と練習やリハーサルのため各地に出かけ、裕子さんは音楽院の代表を務め、コンサートを開いたりチェロを教えたりしている。家の隣にゴーシュ音楽院を開校したのは2014年。
 同じ年、肇さんは個人で、音楽芸術の発展に貢献し、将来の活躍が期待される若手チェリストと指揮者に贈られる『第13回齋藤秀雄メモリアル基金賞』を受賞した。裕子さんによると肇さんは「じわじわ確実に自分の考える方向に進んでいく」という忍耐強い性格。演奏にも反映されているようで、裕子さんは「独自のスタイルがあって魅力的。堅実でありながら音の響きは柔らか」と絶賛する。一方、肇さんもインタビュー中に「君はどう考えるの」と裕子さんの意見を尊重し、お互いに認め合っているのが伝わってくる。「料理が趣味」だそうで、夜遅くまでレッスンのある裕子さんのために、どんなに疲れていても夕食を作るそうだ。
 音楽院は2つのレッスン室と30~40名ほど収容できる音楽ホールがあり、近隣の市町に縁のあるフルート、ピアノ、ヴァイオリンなどの講師を抱える。発表会に加え、毎年、ホタルと音楽が楽しめるコンサートや幼児向けの体験コンサートも開催。今年は旧老川小学校の養老渓谷音楽祭にも参加した。あすみが丘や長柄町のカフェなど小さな会場でも演奏会を開き、「楽器を習うだけの場所にせず、多くの人が音楽に触れられる動く音楽院として、地域に根を張り、音楽の種を飛ばしたい」とふたりで話している。
 同音楽院にて、7月23日(日)ファミリーコンサート、9月24日(日)『チェロ大友肇×ピアノ野本哲雄デュオコンサート』開催。詳細はHP参照。クァルテット・エクセルシオの演奏会スケジュールは同楽団HP参照。今秋、肇さんはファーストソロアルバムを出す。

問合せ ゴーシュ音楽院
TEL 0475・36・3774
メール gauche@outlook.jp

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