文と絵 山口高弘

 真夜中に目覚まし時計が鳴って、すぐに止めました。仮眠できなかった。妻も起き出しました。赤ん坊はすやすやと寝ています。テレビは点けてありました。サッカーW杯、日本対ベルギー戦です。ロシアとの時差のせいで、朝刊が配達されるような時刻でした。
 ご存じの通り激闘でした。してやったりの得点が入り、夢のようなシュートが決まり、不運な失点に動揺して、巨人のような相手に押し戻されて、最後の1分。急に赤ん坊がわんわんと泣き出しました。「ああーあー」『もうおしまいだ!』というような大きな泣き声の中、大逆襲のゴールが決まって、日本はマンガみたいに敗退しました。赤ん坊がピタリと静かになりました。予言のようでした。画面の向こうで、死力を尽くした選手たちが泣いていました。
 世界中がサッカーに夢中になる4年に一度の夏。サッカー好きの僕よりも、妻の方がのめり込んでいました。日本が敗退した後も、深夜にテレビ正面に折り畳みの椅子を広げて、じっと画面に見入っている。遠い異国の戦士たちを、出身や経歴まで調べていました。「フランスを応援するの。〇〇選手と××選手を応援しなきゃ。先に寝てて」出てくる選手名は…なんだ、全員イケメンだ。僕が目を閉じて寝始めると、「ああ」「惜しい」「PKだ!」妻のひとり言です。眠れない!
 僕は外に出て、近所の公園に行きました。電柱のてっぺんが月光にくっきりと照らされて、向こうに星が無数にまたたいていました。気の遠くなる距離からの、古い星の光です。貴族たちが蹴鞠で遊んでいた平安時代の光も、いま届いている。素敵な時差です。時間を忘れて見上げていました。
 さて帰ろう。妻のスター達は、試合で活躍したかな。

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストやエッセイを連載。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1.  山武郡横芝光町で戦前から自家製のぶどうでワインを作り続けてきた『齊藤ぶどう園』では、新たな後継者である齊藤雅子さんが日々奮闘しながら、…
  2.  先日から、各ニュースで報道されていた『5段階の警戒レベルを用いた避難情報』。国が平成30年7月の西日本豪雨の被害を踏まえ改訂したもので…
  3.  5月2日(木)、市原湖畔美術館で開催されたのは『房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020 キックオフイベント』。総合ディレクタ…
  4.  5月12日(日)、ゼットエー武道場相撲場にて市原市民体育大会相撲競技が、市原市相撲協会(藤田明男会長)主管で開催された。当日は小中学校…
  5.  4月27日(土)、有秋公民館主催で行われた『フラワーアレンジ』には7名の男女が集まった。5月12日(日)の母の日を控えていたこともあり…
  6.  市原市在住の大水優香(おおみずゆか)さんは昨年5月から今年3月にかけて、国家プログラムの1つ『日本語パートナーズ派遣事業』によりタイの…
  7.  朝起きてから夜寝るまで、私たちの暮らしは守られています。世界各地からニュースとして入ってくる戦争や内乱、飢餓など、国全体を巻き込むよう…
  8.  現在、茂原市立美術館・郷土資料館では新たな『茂原市史』を編纂しており、歴史に関わる様々な情報を募集している。「茂原市は、茂原町、鶴枝村…
  9.  平成29年に県指定文化財として登録された椎津城跡は、足利氏・武田氏・里見氏・北条氏らが争奪をくり返した中世の城郭で、房総の戦国史におい…
  10.  アジアを代表する美の祭典『ミセスアジア』への第一歩となる『ミセスジャパン』の地区予選大会が、5月19日、東金市の最福寺において開催され…

ピックアップ記事

  1.  山武郡横芝光町で戦前から自家製のぶどうでワインを作り続けてきた『齊藤ぶどう園』では、新たな後継者である齊藤雅子さんが日々奮闘しながら、…

イベント情報まとめ

  1. ◆サークル ショートテニス三和 (月)13~16時 三和コミュニティ 会費:半年5,000円 見学、体験大歓迎 貸しラケットあり 菊池 …

スタッフブログ

ページ上部へ戻る