地形・地質を理解して、自然が生み出すドラマを写す 写真家 緑川隆 さん【茂原市】

 茂原市在住の写真家である緑川隆さんが出版した写真集『大地と海と陽光のドラマ 南房総』には、内房と外房の壮大な自然の魅力を映し出した写真が数多く掲載されている。勝浦海中公園近くの海岸での荒々しい波。太陽が沈んだ直後の白浜海岸。白浜町から館山市に通じる旧道にある名倉トンネル。一枚一枚から見える景色は、見る人の心を大きく揺さぶることは間違いないだろう。
 白子町出身の緑川さんは小さい頃、海岸の砂浜で野球や相撲をして遊ぶのが普通のことだった。「延々と続く海岸線の向こうに、そびえ立つ太東岬が見えました。一度、友達と太東岬を目指して歩いたことがあるんです。一宮川河口を越えることができずに引き返したんですけど、私の中であの大きなものは一体何だという興味だけが残りました」と、話す。千葉大学医学部へ進学した後、講師を経て、長生内科神経内科医院を開業した緑川さん。カメラとの出会いは、医学部研究生時代に神経病理で顕微鏡写真を撮影したことだった。趣味で風景写真を撮り始めると、1998年に全日写連茂原支部に入会した。めきめきと腕を上げ、2003年に千葉県民写真展ネイチャーの部特選、2004年には朝日新聞社主催『日本の自然』のドキュメンタリー・フィルム部門に入選。ついで田沼武能賞、朝日新聞社賞と重ねて受賞するなど、他にも多くの受賞歴がある。医師の仕事に邁進する傍ら、風景写真の撮影をライフワークとして取り組んできた緑川さん。彼が撮る風景写真の魅力は何なのだろうか。
「写真を撮り始めた頃、ずっと気になっていた南房総を訪れたんです。太東岬から先に進むと、大原や勝浦の海岸に幾重にも連なる断崖絶壁が続きます。しかし、鴨川に出ると様相は一変。千葉県には火山はないはずなのに、溶岩のような石がゴロゴロと転がっているのです。それを抜けると今度は白浜に着き、平坦な砂岩が岩場を続く」というように、千葉の地形がいかにバラエティに富んでいるかを発見した。地域で異なる岩場の違い、海岸線の巧妙さ。どうして地形はその形になったのか。様々な疑問を解くために、緑川さんは地質や地形の専門書を使って独学で勉強を始めた。「私の風景写真が人と違うのは、そこにある風景そのものだけではなく、背景にある地形や地質を理解した上で撮影していることだと思います。房総には地層が入り組んだ特徴的な地形が数多く見られるので、地学的な面をうきぼりに出しながら、その時の情景をいかにうまく加えるかですね」と、持ち味を説明する。
 地質学で分からないことがあると、千葉県立中央博物館地学主任の高橋直樹さんを訪ねることも。写真集出版を契機に同書掲載の写真を用いて、2015年に同博物館主催の企画展『房総の魅力ある風景』を、そして2017年に千葉日報主催で道の駅・保田小学校ギャラリーにて同趣旨の写真展を開催した。緑川さんは、「写真は一期一会。同じ風景でも、時間やそこにある物体の存在でがらっと変わります。雨上がりの翌日早朝、洗われて綺麗になった岩場は白黒の色が栄えるんです。私の好きなシーンのひとつです」と、楽しそうに話した。

南房総の魅力を写す

 写真集『大地と海と陽光のドラマ 南房総』は緑川さんが15年かけて撮影した渾身の作品集。南房総の各地へ何度も足を運んでは撮影に挑んだ。「朝の3時に起きて、真っ暗な中でスタンバイ。5時くらいに太陽が出てくると、それから数分がドラマになるんです。朝焼け、そして雲が出てくると海の色が変わります。鳥が飛び始めて、世界が動き出すんですね」と話す。そして、「かつて陸の孤島だった南房総も、アクアラインや館山道の開通によりアクセスが飛躍的に向上し、近隣県から訪れる人やメディアで取り上げられる機会が増加しています。しかし、まだ認知度は低いでしょう」と続けた。
 南房総には人々が守り続けてきた豊かな自然がある。とりわけ海岸には多彩で特異な地層地質に裏打ちされた絶景が随所に見られるのだ。地殻変動の生々しい傷跡を思わせる衝撃的景観がある一方、絶景を眼下に見る秘境の存在も。「南房総はジオパーク候補の宝庫でもあります。写真集は世間一般に知られていない見どころだけでなく、ガイドブックとしても役立つよう編集したので、ぜひご覧ください」と、緑川さんは最後まで熱く語った。写真集の購入について詳細は問合せを。
問合せ:千葉日報社クロスメディア局
TEL.043・227・0066

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