更蝸(こうか)つれづれ ~槇の木~

能舞台正面の羽目板の松の絵は、春日大社の老松が「影向(ようごう)の松」として描かれていると知る。直接見たことは無いがテレビなどで能舞台を見ると、正面一杯に枝を伸ばした松に「なんと凄い姿の松なのだろう」と思いつつ時は過ぎていた。
『影向』を調べてみると神仏が姿を現すことで、「影向の松」は神仏が現れる時の依代(よりしろ)となるものだという。始まりは奈良の春日若宮神社のお祭りで、田楽や猿楽などの芸能者が鳥居の傍らにある一本の松の前で舞を披露し、その松に春日明神が影向したそうだ。神仏に守られながら能を舞う舞台装置と知り、神聖な気持ちを抱いた。
ふと先日、家の槇の木を手入れしながら「この松のような姿の槇は珍しい。最初手掛けた植木職人の思いは如何なものだったろうか」と考えた。二十年ほど前に、槇を主とする外房の造園屋でこの槇(樹齢百五十年~二百年?)と巡り会い、家の前に配置した。訪れる人のほとんどは槇とは思わない様で、近づいてから「松かと思っていたよ」と言う人が多い。
 当初巡り会ったこの槇(末尾写真)は、大きな槇の脇にあり、少々見劣りするも姿・勢いから一目惚れした。後日、家内を連れ見せると同感、早速わが家に嫁いだのである。苗木は江戸時代?からの年月、恵まれた自然環境、多くの人手も関わり、一輪一輪と重ねた幹は太く、今の姿と理解する。「永代槇」としていつまでもわが家並びに周囲を明るく照らす「お宝もの」と、これからも大切に取り扱っていきたい。

・相川浩:市原市出身。三井造船で定年まで勤め、退職直後の平成20年、自宅敷地にギャラリー・和更堂を設立。多くの郷土の芸術家と交流する。「更級日記千年紀の会」事務局担当。タイトル「更蝸」は「更級通りに宿るカタツムリ」との意味。

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