人生軽やかに 生きる喜びを筆に込めて  大月昭和さん・ユキさん

 大月昭和(あきかず)さん(79)・ユキさん夫妻(74)は、揃って日本絵手紙協会公認の絵手紙講師を務めている。昭和さんはよみうりカルチャーセンターの講師で、ユキさんはNHK学園講師をはじめ、テレビ・ラジオ番組での指導経験もある。2017年10月、長生郡長柄町徳増に築100年の古民家を再生し、自宅ギャラリーとして『房総ながら民藝館きまぐれギャラリー風のたより』を開館。絵手紙教室や展示会を開催するなど、多くの人を迎え入れている。

「逆境はチャンス」が合言葉

昭和さんの作品

 大月さん夫妻は、市川市在住。長野県にも民宿を保有し、長柄と長野・2つの拠点を行き来しながら、千葉、東京、茨城などの絵手紙教室で講師として忙しく動き回っている。そんな夫妻には、これまでいくつもの大きな転機があったという。
 大手運送会社に勤めていた昭和さんは、バブル期に仕事の多忙を極める中、40代半ばで突発性難聴を患った。1カ月の入院が人生をみつめなおす機会となり、1989年に長野県飯山市に古民家を購入。時間をみつけて2人で家屋を修復しに出かけ、長期休みには子どもふたりも一緒に家族で田舎暮らしを楽しむようになった。2002年の退職後には、民宿『奥信濃きまぐれの宿 風のたより』を開業。ユキさんはその間に絵手紙と出会い、2003年には講師の資格を取得した。宿は夫婦で切り盛りをし、そこでは絵手紙教室や落語会なども開催していた。

ユキさんの作品

 その後昭和さんは、飯山市にて柿の木から落下し、頚椎を骨折。再びの入院生活で自らの残された時間を意識し、「自分のために好きなことをしよう」と決意した。ユキさんから「老いても1人でできること」と勧められ、絵手紙講師の資格を取得したのが2008年のことだ。2013年には、長柄町に古民家を購入。しかし昨年の度重なる台風で、双方の拠点とも床上浸水し、畳や家具家電などを大量に廃棄するほどの被害を受けた。現在2つの建物は、多くの人の助けを借りて修復が進んでいる。
 人からは「よく心が折れませんね」と言われるほど困難の連続だが、ユキさんは「いい思い出よ」と、あっさり言う。「逆境はチャンス」が夫婦のモットーで、昭和さん、ユキさん共に、目を見張る活力の持ち主だ。

大切な人に心を贈る

小池邦夫さんから開館記念に贈られた作品

 絵手紙に用いる墨は、習字の墨よりも青みがかった淡い色に仕上がる青墨(せいぼく)。絵の具は、日本画に使う顔彩(がんさい)。はがきは和紙が貼りつけてあり、墨の濃淡やにじみが美しく出る画仙紙(がせんし)はがきだ。日本絵手紙協会によると、絵手紙には3つの心得がある。1つは『ヘタでいい、ヘタがいい』。心を込めた上で上手にかこうと思わず、自分らしさが出るのが大切ということ。次に、下がきや他の紙への練習をせずに最後までかききる『ぶっつけ本番』。そして、『お手本なし』。

ギャラリー外観

 かく作業は、題材を選ぶことから始まる。初めての場合は形のとりやすい野菜や果物を選び、墨で輪郭をかく。はがきからはみ出るくらい大きくかくとよい。彩色は、顔彩を何色も混ぜると色が濁ってしまうので、実物そっくりでなくても明るめの色にするときれいに仕上がる。字はハネなどのない活字のような字が読みやすいとされる。文は相手を思って自分の言葉でかき、仕上げの落款は素朴な消しゴムハンコだ。出来上がったら切手を貼ってポストへ投函。もらった人が喜んだ手紙が一番いい手紙だ。
「絵手紙を始めてから何にでも興味を持つようになりました」と、昭和さん。ユキさんは、「絵手紙は、どちらかというと絵よりも言葉の方が大事です。1度習えば、かき方を習得することはできますが、言葉を生み出すには人間力が必要。いろいろな経験が活きてきます」。また、「誰に出すかが大事。出すあてのない手紙は、言葉もつまらない」と話す。絵手紙の創始者で、現日本絵手紙協会名誉会長の小池邦夫さんは、「絵手紙は生き方」と言う。

ギャラリー内はゆったり趣ある雰囲気

「人の喜ぶことが自分の喜び」と、絵手紙仲間や、田舎暮らしを助けてくれた近所の人たちなど、多くの人とのつながりを長年にわたり大切に育んできた大月夫妻。「人とつながるには趣味を持つことが一番。人生が豊かになります」と語る笑顔が若々しい。長柄の『風のたより』の入り口には、開館記念に小池邦夫さんから贈られた自筆の絵手紙が大切に飾られている。書かれているのは、「動かなければ出会えない」。誰にも一歩踏み出す力を与えてくれる言葉だ。

■房総ながら民藝館きまぐれギャラリー風のたより
長生郡長柄町徳増683の1
「山田喜代春展」開催中(版画の絵手紙)2021年9月まで
入館料500円 開館日は不定期(要問合せ)
絵手紙教室:毎月第2水曜・13時半~15時半・1500円
問合せ:大月さん
TEL.080・5192・4669
https://etegami-kaze.jimdo.com

・いちはら絵手紙風の会
八幡宿公民館 毎月第3木曜 10時~12時
問合せ:池田さん
TEL.090・9828・6335

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】(前列左から)会長・後藤さん、講師・片岡さん、     (後列左から)会員の常盤さん、後藤さん、市原さん、中村さん …
  2. 【写真】工房の庭にて。小原さん(左)、齊藤さん  睦沢町下之郷に2人の陶芸家が住んでいる。『夢楽工房』を共同で主宰する齊藤…
  3.  寒い冬の真っ只中、皆さんはどうお過ごしでしょうか?家にこもりがちで、外に出ない方も多いかもしれません。こんな時こそ、ウインタースポーツとし…
  4.  秋晴れのなかの11月6日、茂原公園の広場をスタートに『第19回千葉県ウォークラリー大会茂原会場』が開催された。毎年開かれているこの大会も、…
  5.  ツグミという野鳥をご存じの方も多いだろう。体長23~25㎝、白い眉斑で、頭から背面は黒褐色。羽が茶褐色で、胸から腹にかけてはうろこ状の黒い…
  6.  小湊鐵道光風台駅から、西方に歩いて15分程にある鶴峯八幡宮。鎌倉時代・建治3年(1277)に本宮大分県の宇佐八幡宮より御分霊を戴き、お祀り…
  7.  昨年も、『こでまりの夢』をお読みいただきありがとうございました。昨年は17年間のコラムをまとめ、出版することが出来ました。これもひとえに、…
  8. 【写真】千葉県調理師体会・第32回料理コンクール「千葉県栄養士会長賞」受賞作  料理教室『ヘルシークッキング』を平成15年…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】(前列左から)会長・後藤さん、講師・片岡さん、     (後列左から)会員の常盤さん、後藤さん、市原さん、中村さん …

スタッフブログ

ページ上部へ戻る