「日本一小さな文学館」 館長 桑原文明さん 吉村昭文学資料館 袖ケ浦市にオープン【袖ケ浦市】

『戦艦武蔵』や『破獄』など数多くの記録文学や歴史文学作品を発表した作家、吉村昭氏(1927~2006)。彼の手がけた作品をはじめ、生原稿やLPレコード、他にはないレアな資料も揃えた吉村昭文学資料館が8月1日、袖ケ浦市に誕生した。半世紀に及ぶ歳月をかけて熱心な資料収集を続け、準備を重ねてきた館長で吉村昭研究会会長の桑原文明さんに話を聞いた。

吉村作品との出会い

 6人兄弟の末から2番目に生まれた桑原さん。父親が万葉集の研究をしていたため、家には本がたくさんあり、桑原さんも子どものころから本や読書が大好きだった。19歳の時、古書店で偶然『水の葬列』を手に取った。「文章が綺麗で、大げさではなく、美しく切り取られている。最後の結末に、こんなのありか?って衝撃を受けました」。吉村氏の作品との出会いだった。
 吉村昭氏は1927年、日暮里に生まれる。1966年、『星への旅』で太宰治賞を受賞し、徹底した取材をもとに綴る記録文学や戦史小説で知られるようになり、『戦艦武蔵』や『関東大震災』などのドキュメント作品で菊池寛賞を受賞する。他にも多数の文学賞を受賞し、2006年、病気で亡くなるまでに生涯で創作した小説は371編。映画化やテレビドラマ化された作品も多い。「吉村昭は著書で読んだのですが、肺を取っていて体が弱いんです。ハンデがあっても突き進む強さ、真摯な姿勢、筋が1本通っているところに惹かれます。自分とは違うから憧れるんです。男が男に惚れています」と桑原さん。

伝えたい思い

(左上から時計回りに)短編集『帽子』、『水の葬列』、著書を網羅した索引、創刊50号の会報誌『吉村昭研究』

 一方、大衆的な人気でよく比較される司馬遼太郎との差が歯がゆくもあった。「この人はもっともっと認められるべきだ!」との思いから、桑原さんが資料収集にかけた情熱が凄い。出版された単行本は言うまでもなく、文庫本、雑誌、吉村氏が寄せたコメントや名前が掲載されたほとんど全ての印刷物、お気に入りの飲食店のメニュー、生原稿など熱心に収集し続けた。書店通いと新刊情報チェックは日課だ。顔見知りになった古書店の店主から、世に出ていない原稿などの入荷の情報ももらえるようになった。もちろん手に入れた。太平洋戦争関係者への吉村氏によるインタビューを記録した貴重で大変珍しいLPは、迷った末に月収の4分の1をはたいて購入した。こうして集められた資料は3000点に及ぶ。国会図書館にも無いレアな資料も含め、各資料は資料集や辞典としても整然とまとめられ、直接資料も手に取って閲覧できる。
 この貴重な資料館は、桑原さん曰く『日本一小さい文学館』。以前は奥様の故郷、愛媛で暮し、宝くじが当たったら吉村昭記念館を建てよう!と夫婦で夢を語り合ってもいたが、4年前、奥様が病気で他界。息子さんが暮らす袖ケ浦市へ引っ越し、アパートを借りて、その一室を資料館としてオープンした。本棚にズラリ並ぶ書籍。一冊一冊拝見した。手にとる度、ネタバレしない程度に、あらすじや作品の特長をガイドしてくれる。全小説371作品を数回ずつ愛読しているそうだ。卒業論文の研究に訪れる学生もいるとのこと。
 半世紀にわたり敬愛する作家を追求し、その魅力を一人でも多くの人に伝えたいと活動を続ける桑原さん。今後の計画としては、長期的には2027年の生誕100年祭を描いている。近いところでは9月12日に荒川区のアクト21ホールで『吉村昭と味と酒と』と題するイベントを開催予定とのこと。同イベントは東西作家酒豪番付で東の横綱としても知られるほど、こよなく酒を愛した著者についての興味深い講演に続き、短編集『帽子』から『朝食』の朗読も行われる。状況により変更の場合もあるので、お出かけ前にご確認を。詳細は本紙イベント情報にて。

 

★吉村昭文学資料館
9時~18時 年中無休 完全予約制
一般1000円 会報定期購読者・高校生500円
吉村昭研究会会員・小中学生は無料
袖ケ浦市福王台3の20の11 ゆみーる福王台103 
問合せ: 吉村昭文学資料館
TEL.080・6393・2549
http://yoshimuraakira.main.jp

 

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