『四谷怪談』のお岩さんに憧れて女優になった

女優・怪談師 牛抱 せん夏 さん

 夏の風物詩でもある怪談やお化け屋敷。数年前から『怪系イベント』がブームを呼び、ホラー映画や噺家による怖い話などを見聞きし、ストレスを発散させる『ホラ活』なる言葉も誕生。各地で怪談話を『百物語』のように披露し合うサークルが発足されたり、大手旅行代理店が怪談スポット巡りと怪談話を聞くツアーを行うなど盛り上がりをみせている。
 そんななか、今夏、市原市南総公民館主催で開催された『夏の怪談話 牛抱せん夏の世界』。市原市出身の女優であり女流怪談師として活躍中の牛抱せん夏さん(38)を招いての怪談ライブだ。南総公民館は昨年一昨年と、お化け屋敷を開催して大好評だった実績を持つ。昨年同様、今年も同館職員が中心となって運営し、市原高校の教師と生徒がボランティアスタッフとして参加、会場設営やお化け役等を担当した。
 今回はお化け屋敷風の通路を歩きライブ会場に入るスタイル。ライブ中も会場の片隅から、お化けが現れたり、ステージに不気味な影絵が投影されたり、思わず悲鳴をあげてしまうような効果音が発せられ、観客の恐怖心を煽った。ライブは午前と午後各1時間の2ステージ。『女子更衣室』、『わら蛇』、『雪国』の3話が披露された。いずれも、創作ではなく牛抱さん本人や親族、知人などの体験談に基づいて書かれた話で、2年前に発行された著書『千葉の怖い話』も同様とのこと。
 ライブ終了後に来場者に感想を尋ねると、「プロの怪談師の話を聞く機会なんて、なかなかない。また来年もやってほしい」と皆さん、満足げ。しかしながら、「地元出身とは知らなかった。どんな女優さんなんですか」という声も多かった。今回、牛抱さんが自分の育った市原市での公民館ライブが実現したのは、昨年、市民会館で開催された市原市生涯学習フェスティバルでの『怪談牡丹燈籠 二人語り』出演をきっかけに、熱心な南総公民館の職員からのオファーがあったからだが、「私を育ててくれ応援してくださる地域の皆さんに、自分ができる形で恩返しをしたい」という想いも強かった。そんな牛抱さんをあらためて、ご紹介したい。
 まずは、牛抱せん夏さんという変わったお名前。芸名かと思いきや、本名は牛抱千夏さん。千夏の千をせんと読ませただけで姓の牛抱は本名。全国珍名事典にも載っているほど珍しい姓で、全国に40人ほどしかいないそう。
 これまでに様々なお化け役を演じてきた牛抱さん。母方の家系の女性は霊感が強く、自分もそうなのだと打ち明ける。だから、彼女が語る怪談話の多くは、長野の祖父母の家で聞かされたものだという。長野県で生まれ2歳の時に神奈川県に引っ越し、その後、市原市に移り住んだ牛抱さんは、子どもの頃、毎年のように長野の母方の実家に遊びに行った。市内南部に引っ越したため白金小から内田小、南総中へと進学。東海大望洋高校卒業後、女優を目指して単身東京へ。「幼い頃から女優になりたかった。小学生の時に四谷怪談を観て、子どもながらにもお岩さまの内面の美しさに惹かれ、将来女優になって、お岩さまを演じたいと思った」と話す。「お岩さん」でなく「お岩さま」というぐらい憧れている。日本三大怪談のひとつ、『牡丹燈籠』の主役、お露を演じて4年目になるが、未だ念願の、同じく三大怪談である四谷怪談のお岩を演じていない。「まだ自分は、その域には達していない。演じるには早いと思っていた。でも、そろそろ挑戦したい」と静かに闘志を燃やす。

 ろくろ首や口裂け女などを演じる怪奇女優として活動を続けてきたが、怪談師として有名なタレント、稲川淳二さんが審査委員長を務める『怪談グランプリ2010』に出場し優勝。これを期に、毎月、浅草の雷門区民館で怪談ライブを行い、浅草木馬亭で千秋楽を迎えた。その後も『せん夏怪談』を続け、女優の経験を生かした巧妙な話芸やジェスチャー、多彩な表情を持つ怪談師としての実力に、怪談マニアの間で今では「ポスト稲川」と評判は高い。
 多忙な日々を送る牛抱さんのリフレッシュ法は大好きなゾウと触れ合うこと。『市原ぞうの国』にはよく出かけるそうで、タイへも度々ゾウに会いに行くと笑顔を見せる。
 この仕事を選んで良かったと思うのは、「終演後のお客様の笑顔を見た時。怖かったけど面白かったと思ってもらえたら。それだけのためにやっているといってもいい。私のライブで恐怖心がトラウマとして心に残ったらいい。今の子どもたちは怖いものから遠ざけられている。怖いイコール生きている。怖いと感じなくなったらおしまい。こどもたちの怖いという感覚を呼び覚ますのが私の役目だと思っている」と語る。

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