我が家はまるでブレーメンの音楽隊

我が家はまるでブレーメンの音楽隊
北村 昭彦さん

「海辺で子育てがしたいと、夷隅周辺の求人情報をインターネットで検索したら、一番にでてきたのが今の仕事の『NPO法人おんじゅくDE元気』のスタッフ募集。御宿の自然を活かして人を元気にする企画づくりと、実施・運営が主な仕事というくだりに運命的なものを感じました」と話すのは北村昭彦さん(38)。 
 それまで千葉とは縁もゆかりも無く、ただ夷隅に移り住んだ人たちが楽しい暮らしをしているらしいと、奥さんの礼江さんが、どこからか得た情報を話していたのを覚えていた。「しかし電話をした時には、すでに他の人が決まってしまっていました。それでも一宮で田舎暮らしセミナーに参加した際、理事長に電話をすると、空きができたのですぐに面接したいと言われ、次の週から働くことになりました」。最初のひと月は週末だけ東京に帰るプチ単身赴任状態だったが、子どもの新学期に合わせ、3年前の4月、家族で御宿に移住した。
 北村さんは母子家庭の一人っ子として生まれたが、母親が南の島で子育てがしたいと、北村さんが3歳の時、東京から三宅島に移り住んだ。保育士をしながら山を開墾して畑にしてみたり、蚕を飼って機織を習ってみたりと、貪欲に島の暮らしを楽しむ母の姿を見ながら北村さんは育った。「母はどんな状況でもそれを肯定的に受け止め、決して笑顔とユーモアを絶やすことなく、次々と『楽しいこと』を見つけてはチャレンジしてしまう人。自分なりの美学のようなものに裏打ちされた、ゆるぎない強さを持っています」。そんな母親に北村さんは一人で生活していく上で必要なことを小学生の間に教え込まれ、その後は好きなように生きるよう島を離れることを勧められたという。そこで中学生から練馬区の祖父母の家に身を寄せた。
 大学では自然史を専攻し、自然と人との関わりについて広範囲に学んでいたが、授業中に観たドキュメンタリー映画の中で、親を密猟者に殺された子象を保護し、野生にかえしている施設を知り、どうしてもその現場を見たい衝動にかられ、休学してケニアに渡った。1カ月もすると現地の言葉がどうにか理解できるようになり、近辺の集落を歩いてはそこに住む人たちと世間話をすることが日課になったという。ある日、身なりはぼろぼろで仕事も金も無く、10人生まれた子どものうち6人は幼くして死に、明日の食事にも不自由するような状況の老人が、「俺は世界中で一番の幸せ者だ。4人の子どもが毎日幸せを運んできてくれる」と自慢げに話すのを聞いて考えさせられた。思えばケニアで出会う人たちの多くは皆、同じように苛酷な状況下にあっても助け合いながら明るく朗らかに暮らしているのだった。
「日本はこんなにも豊かで恵まれているのに、自分は不幸だと嘆き暮らす人のなんと多いことか。日本がケニアから学ぶべきことがきっとたくさんあるはずと考えた時、母親の生き様が思い起こされました。そして母とケニアの人々が教えてくれたこと、それを活かして何か日本の社会に貢献していけたらと漠然と思うようになりました」。27歳の時、高校の同級生だった礼江さんと結婚。ほどなく二人の男の子を儲けたが次男はフェニルケトン尿症というある種のアミノ酸を消化分解できない病を持って生まれた。6歳になった今でも肉や魚、大豆製品など、また主食である米や麦も厳しい制限があり、特殊ミルクで栄養を補いながらの食生活だ。「それでも息子は自分の宿命をしっかりと受け止め、食事制限の辛さよりも、もっともっとステキなことがいっぱいある!とばかりに周りを元気にしてしまう強いオーラを放っています。彼から学ぶことも多いです」
 かつては引っ込み思案で人と話すのが苦手だった礼江さんも北村さんに出会い、「色々な考えがあって、それぞれの生き方がある。だから素直に自分が思うように生きてみよう」と考え方が大きく変わったと話す。今では手作りワークショップを主宰するなど、積極的に人の輪を広げている。また友人らと有機農法にこだわった野菜や米作りにも挑戦。「子どもの将来を考えると、私たちが昔からの生きる知恵を受け継ぎ、それを伝える必要があります。そのためにも田畑を耕し、羊や蚕を飼って糸を紡ぎ織り、自分の力で生きる姿を子どもに見せたいと思っています」と礼江さん。
 海に近い小さな家で犬、猫、鶏、ヤギと楽しく暮らしている。どんどん人や動物たちが集まってくる家は、まるでブレーメンの音楽隊の物語のよう。子どもたちの夢は、馬やロバも飼うことらしく、もう少し山のほうで敷地が広い貸家を探しているという。

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