県内3141社の鳥居と注連縄 30年かけ、すべて撮影  長南町 山形俊男さん

 長南町の山あい、山形俊男さん(77)の自宅には、1枚A4サイズにプリントされ、地域ごとにまとめられた140冊の写真ファイルがある。タイトルは「下総・上総・安房國 産土(うぶすな)神社 鳥居と注連縄(しめなわ)」。県内全域、3141社の鳥居と注連縄、社殿を撮影したもので、小さな集落の小さな社も洩らさずに完成したシリーズ写真だ。

初めての入賞 魅入られた写真

「カメラにハマったのは高校2年。地元の同級生が二眼レンズカメラを貸してくれて、自宅の縁側で飼い猫の写真を撮りました。学校の文化祭でその写真が入賞。それまで賞状なんてもらったことがなくて、凄く嬉しくてやめられなくなりました」と笑う山形さん。当時のカメラはかなりの高級品。卒業後、家の農業を継いだがすぐには買えず、結婚してしばらく、我慢できずに生命保険を解約して買い、「妻にとても怒られた」という。やがて企業に就職し兼業農家となった昭和40年代前半、集落の子どもや農村風景を撮るようになった。「写真の同好会に入り、仲間と撮影旅行に行ったり、公民館の文化祭で毎年展示会をやったり。町の文化財撮影にも協力しました」
 神社の撮影を始めたきっかけは平成元年秋。集落の神社の祭で注連縄を作っているとき、「なぜこの注連縄は真竹を使うのだろう」と疑問に思ったという(タイトル写真/長南町豊原・八幡神社)。近くの神社の注連縄にも同じものはなく、すべてどこか違っていた。「地域の記録として残したら面白いんじゃないか」と考えたものの、なかなか撮影に出る機会がない。地元を中心に撮っていたとき、一宮在住の宮司から古い県内の神社名簿をもらった。「住所が全部載っており、これで上総地域をまとめようと、本格的に茂原市・長生郡市全域へ出かけました。平成22年のことです」。鳥居は歪まず写るよう、フィルム用中判カメラ『EBONY』で撮影。社殿は一眼レフカメラ、参道ほかはコンパクトデジカメを使用した。次に山形さんは富津、君津、木更津、袖ケ浦へ行き、山武・九十九里・芝山方面をまわった。市原は大雪が降った26年冬に終わり、翌27年1月、夷隅・大多喜で上総地域は無事終了した。

代々伝えてきた それが大切

雪の中撮影した市原市・鶴舞神社

 平成28年、山形さんは写歴50年で写真集を作った。もちろん、神社の鳥居と注連縄の作品集だ。「注連縄は、各地域の氏子が代々伝承してきたもの。隣り合った集落でも、形やいわれ、まつわる風習など、同じものがない。どうして違うかは分かりませんが、昔から大切に伝えてきたということは同じです。なので、地元長南町だけですが、きちんと形にして残そうと思いました」
 安房地域の撮影がスタートしたのは平成29年12月の館山。翌年2月、小湊で終了したが、そこで、「県内全域なんてできないだろうと思っていたのが、上総も安房も撮影したのに下総に行かないのは中途半端だ、と考えてしまったんですね」。それまで、農業の繁忙期以外・秋から翌年春先までを撮影期間に当てていた山形さんは、下総地域だけ、集中的に撮影に専念することにした。その年の米作りが終了した9月から1年間、田を知人に任せ、家族にも了解をとって、朝3時半に起きて4時に家を出るようになった。綿密にルートを決め、1日で10社以上をまわる。だが、市街地が多く、車を止めるところが見つからない。区画整理で地名が変わっているところも多かった。有料駐車場にとめ、歩きで近くを探したことも。毎月10日に敷地を開けると現地で聞き、翌日が10日だったことで、急きょ道の駅で車中泊をしたともいう。

使用した中判カメラEBONY

 県内すべての撮影が終わったのは令和元年9月。最終的に写真は3806枚になった。一番印象に残ったことは?と聞くと「境内の神木にわら人形を見つけたとき」とのこと。「ドキッとして固まりました。平成の時代にもあるのか!って」。社を探すため、現地で神社を管理する宮司さんに連絡をとり、直接訪ねて訝しがられたこともあるそうだ。一方、多くの人に助けられた撮影でもあり、田の中に落ちた車を引き上げてくれた人、現地で探すのを助けてくれた人など、多くの縁があったという。「神様に助けられたのか?と思うほど、誰もいない場所での脱輪がスムーズに抜けられたり、本当に色々なことがありました。特に迷惑をかけた家族には、とても感謝しています。他に同じような神社の記録を残している人がいないようなので、これから何らかの形にしていけないか、検討しているんですよ」と満足そうに語った。

問合せ:山形さん
TEL.0475・47・0588

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