少年

少年
文と絵 山口高弘

 女性店員がつかつかと歩いて行って、テーブルの上に座るのは…と静かに注意しました。15歳くらいの少年が謝ってテーブルから下り、仲間の5人が姿勢を正しました。そらみろ、僕はせいせいしてスパゲティを口に入れました。放課後に私服に着替えたら気が大きくなったクラスの冴えない男子たち、といった連中が、携帯片手に飲食店で騒いでいたのです。わかる、わかるよ、少し悪いふりすると楽しいのは。いづらくなった彼らはテーブルにがちゃがちゃぶつかりながら僕の前を過ぎ、店を出ていきました。
 やれやれ。自分を棚に上げて良識ぶって、会計しようとすると財布がない。テーブルの上に置いていたはず…あの学生め!びっくりして立ち上がり、慌てて探すと鞄のポケットにありました。「どっちが冴えないんだか」、僕は15歳の自分に頭の中で笑われました。
 どうも風が強いといけない。今年は桜が早かったからなおいけない。5月になった気で4月を過ごし、3月みたいな寒い陽気に面食らって。家路の桜木は葉桜で、その濁った緑は春の期待に上塗りした墨に見えました。
 よく晴れた土曜日の午後。国道は物憂げな渋滞で、車は西日に光っている。どの助手席も眠そうです。退屈のせいか色んな後悔ばかりが浮かんで、僕の頭は事故渋滞でした。ふと、前の車の中が笑いで沸いたのが見えました。
 前方から15歳くらいの3人組の少年が、手を振って道路脇を自転車で走って来たのです。今流行のエアーロックバンドの、あの白塗りの顔で。片手でリズム良く音頭を取って、渋滞に苛立つ車列を順に笑わせて過ぎていく。いえーい。僕も吹き出して笑ってしまって、女々しい後悔たちは春風に吹き消えました。
 ありがとう、救われた。愛すべき少年の心を後方に見送ると、前の信号は青に変わっていました。

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