身体の奥底に眠る幻想的な女性を描く

銅版画家 鈴木 克己さん

 市原市在住の鈴木克己さん(66)は、幻想的な世界を描く銅版画家だ。作品のモチーフとなるのは女性が多く、描かれた世界を理解するために鈴木さんの頭の中をつい覗きたくなってしまう。瞳の大きな女性の身体は、良く見れば鯉のぼり。肩や胸を含む上半身が見事に一体化していて、ぱっと見ただけでは違和感もない。かと思えば、スカートを穿いた少女の上半身は渦に消えている。「テーマは銀河なんです」というちょっぴり不思議な絵は、鈴木さんの持つ繊細な感性から生まれるのだろう。
 1948年に市原市内で生まれた鈴木さんは、東海中学校在学時から水彩画を描いていた。卒業後は、駒込美術アカデミーやフォルム美術研究所、千葉美術アカデミーでデッサンなどを学んだ。「千葉美術アカデミーでは深澤幸雄先生や多賀新先生に出会いました。そして銅版画を始めました。銅板画は刷ってみないと分からない。今までと違うテクニックが求められることに面白さを感じました」という鈴木さんは、それから独学で作品を作り上げていった。
 幻想的な作品は、師事した多賀さんの影響を強く受けているというが、実力は確か。1981年の初出品以降、毎年版画協会展に出品を続けている。また、千葉市の下総屋画廊・テプコ千葉、大網白里市のギャラリー彩など多くの個展を開催。昨年は都内文京区のギャラリー愚怜で個展を行った。版画協会の会員でもある鈴木さんだが、最も記憶に残る出来事は岐阜県本巣郡で開催された『第二回ほずみ夢版画全国コンクール』で大賞をとったことだとか。「町おこしで始まったコンクール。辞めたくなることもあるけれど、締め切りに追われて作品を描き、結果に表れるとやはり嬉しいですね。理想があったらそれしか描けないじゃないですか。描く女性も自分の理想というわけではありません」と鈴木さんは笑う。大賞を受賞した作品は、カトレアの花とウサギが合体した想像上の動物を描いたもので、国内と上海市から1492点の中から選ばれた。だが、細かい作業だからこそ1枚を完成させるのに約2、3カ月かかる。「私の作品は少ない方ですよ」というが、今までかき上げた数は把握しきれないほど。現在は退職しているが、会社員時代は休日だけでは時間が足りず、夜中まで作業したことも珍しくない。客観的に見ようと一度描くのを止め、半年ほど経ってから描き足していくこともあった。
「若いころはケーキ屋でアルバイトをしながら、デッサンばかりしていたこともあります。お金が無くて大変だったけれど、ケーキ作りは得意でした。細かい作業は得意だったんです」という通り、鈴木さんの作品は手で作り上げたと思えないほど、細かい!それが持ち味である。『いかに細かく難しいものに挑戦するのがやりがい』なのだ。「上手くいかない時もあるけれど、自分に描けるのかと思うと試してみたくなるんです」と心意気は継続中。
 手先の器用さは木工会社に勤務していた時もとても役立った。自宅にある天井に届きそうなくらい高く大きな本棚も、ご先祖様を祀るための仏壇も、なんと鈴木さんの手作りだ。「現場でどうやってできているのかじっくり観察して、家で再現するんです。仏壇もそうですね。仏具やさんに見に行きました」というから驚きだ。一つのことをとことん追求する性格なのであろう。
 そんな鈴木さんは、銅板画のどこに魅力を感じたのか。「墨は五彩を表すといいますよね。モノクロは一見白と黒の2色しかないようですが、実はそうではありません。色んな使い方をすることで多彩に、そして豊かに表現できるんです」と話す。そう、目を凝らしてみるとその通り。クリームがかった色をしている部分や、グレーに見える箇所。様々な色が混じり合ってモチーフとなる女性の表情や髪色を表現している。鈴木さんは、「雁皮紙という和紙を使うと、インクを刷り取りやすく味わいもでます。一番楽しいのは、銅板画をやって色んなことを知れたことですね。版画の概念も広がりました」と満足そうに続けた。今後は、「銀座で個展を開くことが目標」としていて、さらに多くの作品を描き続けていくことだろう。

問合せ 鈴木さん
TEL 080・5674・4153

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