せ み 遠山あき

 夏の夕方、涼風が心地よいころになると、いつも何処か遠くへと誘われていくような、そうして一抹の悲哀をかもし出すような、ヒグラシの「カナカナカナ」という啼き声を聞く。幼かった私はその啼き声に魅せられ、いつまでも立ち尽くして、その声に聞き入ったものだ。
 一匹が啼き出すと、誘われて森中のヒグラシが声を揃えて啼き出す。澄み切った声で、同じリズムで、同じ音程で山を一つにして声をそろえる。透明で、大きくはないのに遠くまで響きわたる啼き声だった。きっと、あれは私の生まれる前にも聞いた声なのかもしれないし、私の心のふるさとからの声なのかもしれない。理屈なしにそう思えてしまう。
 蝉は、七年もの間、地中で樹の根の栄養を貰って動かず生き続けて(あるいは眠り続けて)いるという。どうして地上へ出る時を知るのであろうか。七年という時間が何で分かるのだろうか。「その時」が来ると自ら掘り進み、地面に穴を開けて地上に這い出る。硬い茶色の殻を着ているが、やがてその背中が割れる。自分で割るのだろうか?そうして私たちの見る「蝉」になる。
 あの啼き声は、蝉の羽と羽をこすり合わせて出すのだという。でもその羽は、茶色のアブラゼミ、透明なミンミンゼミ、ヒグラシ、ツクツクホウシとあって、小型のもいるし、大ぶりのもいる。それぞれ自分の持った啼き声で歌う。声をそろえる蝉たちは、間違いなく仲間たちと同じ啼き方をする。ツクツクホウシにいたっては複雑な啼き方なのだが、どの蝉も絶対に啼き方を間違えない。地方によっていろいろに聞きなしているが、私は「オーシンチョコチョコ、オーシンチョコチョコ、チョコジンヨー、チョコジンヨー、ジーーー」と啼くのだと教えられた。
 どの種類の蝉も、同じリズムで同じ声で、心地良さそうに声を揃える。あの小さな羽根をこすり合わせるだけで、その蝉たちの固有な啼き方で歌い出すのだ。七年もの地中の生活からようやく出ても、地上での生命はわずか七日程度であるという。だからこそ、あんなに命の限り啼くのかもしれない。それぞれの独特の歌い方で啼きつくす。蝉の生命の、おのずからな叫び声なのだろうか……。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1.  今年6月、市原市糸久に自身の作品を常設した『ikuiro gyallery』をオープンしたのは、画家の中山育美さん。「1年半ほど杉並区の…
  2.  手口も多岐にわたり、被害が増え続けている「電話de詐欺」。昨年、全国で親族をかたるオレオレ詐欺被害に関する調査が行われた。対象は、被害者…
  3.  毎月第1日曜のみ。大多喜町の小さなチーズ工房【千】sen の営業日だ。「ひとりで作る数には限界がある。量を増やして質が落ちたりしたら本末…
  4. パスカルの原理(化学の力)を利用したおもちゃを作ったり、スライムづくりに興じたり。8月17日、小学生を対象にyouホール(市原市勤労会館・…
  5.  鹿児島県出身で、市原市美術会・市原市文化団体連合会を設立し、フランスの近代美術館やイギリス王室にも作品が所蔵されている日本画家、故・古城…
  6. 今も健在、観音掘りトンネル  日本には古来から「観音掘り」と言うトンネルの掘削工法があり、将棋の駒に似た上部の尖った形状をしています。トンネ…
  7.  市原市の上総更級公園を中心に開催される『上総いちはら国府祭り』は、今年で第9回を迎える。10月5日(土)、6日(日)の両日に渡って開催時…
  8.  防犯特集第2回は、第1回に続き「電話de詐欺」について、その手口の変遷と、最も新しい方法を紹介する。  手口の変化は、犯人グループが警察…
  9. きかんしゃトーマス ファミリーミュージカル ソドー島のたからもの 5年間で30万人以上を動員した大人気ミュージカルがみんなの街にやってくる!…

ピックアップ記事

  1.  今年6月、市原市糸久に自身の作品を常設した『ikuiro gyallery』をオープンしたのは、画家の中山育美さん。「1年半ほど杉並区の…

イベント情報まとめ

  1. ◆サークル 名曲を歌う会 第2・4(火)  14時半~16時 ギャラリーMUDA(ちはら台駅2分) 1回1,300 円、体験半額 ピアノ…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る