浮かび上がる質感、温かみのある風景

 うっすらと雪が積もった山が遠くに見える山麓の道。民家の藁葺き屋根が右手前で大きな存在感を示している。市内在住の画家、川田敏巳さん(69)が描いた長野県安曇野市の5月の風景。明るい色彩、温かみのある景色がキャンバスに広がる。宮城県にある七ケ宿(しちかしゅく)町の街道を描いた絵も、立ち並ぶ宿の屋根や庇が手前に大きく位置した構図。屋根に重きを置くこだわりは、川田さんの心に幼少期からずっと残っているモネの作品『サン・ラザール駅』に由来する。鉄枠にガラスのはまった駅の屋根と蒸気機関車。「屋根を大きく描いた構図に惹かれた。何度も真似してみたけれど本物には近づけない」と笑う。絵画に興味を持ったのは小学生の時。お菓子のおまけに有名絵画の小さな複製画がついていた。規定枚数集めると大きな複製画がもらえるというもので、こづかいを貯め手にしたのがモネの『サン・ラザール駅』だった。「自分でも描いてみたい」強い衝動に駆られ、絵を描き始めた。
 現在は妻の里惠子さんと長野県や福島県などへ旅行、その先で巡り会った風景を鉛筆と水彩絵の具でスケッチ。続きは撮った写真を見ながら家で描く。淡い色づかい、優しい雰囲気の水彩画から、岩や雪など対象物の質感を出すために筆を何度も重ねることで存在感と厚みのある油絵に仕上げていく。
 山形県で山と雪に囲まれて育った。「山と雪が好き。空気の冷え切った夜中に降る雪のシンシンという音や、空気が冷たいときは軽く、暖かいときはベチョベチョした質感を筆で表現したくて」うっとりとした表情で話す。
 独学ながら数々の絵画展で受賞経験を持つ。全国からプロの画家が多数応募した平成13年の天津小湊町絵画コンクールでは、誕生寺を独特のアングルで描いた作品が秀作に選ばれた。市原市で選ばれたのは川田さんただ1人だけ。「賞は何度いただいても嬉しい」。受賞するたびに子どもたちが集まり、みんなで食事に出かけて祝う。笑顔あふれる明るい家庭が、川田さんの絵に温かみを添えているのかもしれない。
 絵を描くことが大好き。子どもの頃、欲しいものはいつも画用紙だった。空色の壁紙に囲まれたアトリエで新たに取り組んでいるのは船をテーマにした作品。平成23年に千葉県勤労者美術展で厚生労働大臣賞を受賞した『休日の夕景』は内房で目にした屋根の風景と、九十九里町の片貝漁港に停まっていた船を組み合わせたもの。「30号以上の大きなキャンバスに船や灯台をたくさん描いてきたい」ワクワクした表情で話す川田さんは、まるで少年のようだ。

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