子どもの自立を支える鍵はあるのか

 2月3日(土)、市原市市民会館で開催された『こころの病気がわかる勉強会』。全3回の同勉強会では、1回目に『働く人と家族のためのうつ病講座』、2回目に『ひきこもりへの理解と対応』、そして今回『思春期の子どもの自立』を学んだ。3回目の講師はちば心理教育研究所の光元和憲さん。
 光元さんはかつて市原市の磯ヶ谷病院や八千代市の八千代病院で臨床心理士として勤務し、1995年に同研究所を開設。児童相談所やNPO法人と連携し、心のケアに尽力している。「思春期の子どもの心をよく表現しているのが映画『千と千尋の神隠し』です。そこに込められた思いは、どの子どもにも共通することです」と光元さんが解説する。
 約40名の参加者は、スクリーンに映し出される映像の要所を見ながら、どこに仕掛けが隠されているのかを真剣に聞き続けた。可愛らしいキャラクターも多く登場する同作品は、老若男女問わず爆発的な人気を誇った。一見、小学生の千尋が異世界に迷い込み、両親を救うために奮闘する冒険映画のようである。だが、その裏に隠されている思春期特有の課題と両親との関係性は、知れば知るほどどす黒い。
 「最初の導入は引っ越しのシーン。これは児童期から思春期へ千尋の心の移り変わりを暗に示しています。また、トンネルを両親と通る時、彼らは千尋をまるで保護せず関心も薄いのが分かります」と光元さんは細かい部分まで指摘。そして、主に仕事をする、挨拶をする、ルールを守るという社会で人と関わる上で必要なことを描き出しているという。 
 また『ハク』や『カオナシ』、『坊』など千尋を含めた心の傷や闇を象徴とする登場人物は、承認欲求を得ることで成長していく。悲しいことに唯一変わらないのはトンネルから帰る時の両親の姿。千尋の心が成長しても、両親の態度に変化はない。「子どもは、ある日突然親が完璧でないことを悟り愕然とします。親との行き違いで心にトラウマを持っていても、親の保護の限界を諦めることによって自立していくんです」という光元さん。
 しかし、それも自身の甘えを認められ、要求が満たされたことで、他人との愛着形成と信頼を成立する心が持てた結果だ。そして、「自立は心の中に大人のモデルを取りこみ、欲を我慢できるようになることが大切。自立できないと外の誰かに甘えることになるんです」と続ける光元さんに、「映画のタイトルの神隠しは子育て放棄という意味に捉えられるのでしょうか」、「コミュニティの少ない今、大人になれない母親は多いです。なぜ虐待は起きてしまうのでしょうか」など参加者からも質問が上がっていた。映画に込められたメッセージは、ただ楽しむというだけでは耐えられない、心の悲鳴が描かれているように感じられた。

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