自然と同化し、風景、山岳を撮る

 ひとり、暗がりの湿原で鹿の声を聞きながら夜明けを待つ。太陽の光が少しずつ山から姿を見せ始めてわずか1~2時間位が勝負だと、睦沢町在住の風景写真家・清野彰さん(69)は言う。
 ホームグラウンドは、春夏秋冬40年以上前から連続で足を運んでいる八ヶ岳。その他、カラマツやブナ、白樺を求める時には新潟、北アルプスなど…。人工物の入らない自然な山岳写真を専門に撮影活動を行ってきた。清流をたどり、渓谷に入って、滝に出会う。既に八ヶ岳を中心に長野県や山梨県の山の概要はおおよそ頭に入っており、人がほとんど踏み込まない場所を選び進んでいく。
 「撮影作業は被写体探しで9割を占める。だから、新緑、あるいは紅葉が迎えてくれる季節ごとの風景を、経験で培った目で、隈なく寸分も見逃さないよう歩いていくんです。自然と一体感を持ちワクワクしながら。そして自分のイメージに合った渓谷や森に出会った時、それらが被写体として待っていてくれた気さえします」
 天候によって光の差し具合・色合いが異なるから、「これだ!」と思う瞬間を同じ場所で2~3日も待ち続けることも。「朝日や雲が自然のキャンバスを演出してくれるその瞬間を」。
 清野さんは新潟県出身。就職(茂原市の企業)を機に移住し、22歳で一眼レフカメラを購入して写真を始めた。以来、仕事の合間を縫って年に4~5回、車で寝泊まりしながらの3泊4日の撮影旅行を継続。加えて現在は、一宮海岸の満月の夜や近隣の風景も撮影している。
 こうして撮り貯めた写真は、およそ2万枚。これまで、睦沢町中央公民館や茂原市立美術館、郷里新潟の美術館で写真展を開催しており、今年1~3月には「ホテルスワンレイク長柄」(旧「和楽の郷」)のギャラリーにおいて、ドールハウス作家(茂原市の武田久子さん)との二人展を開催した。
 「睦沢町創作美術展でドールハウスを初めて知り、ご協力をお願いしました。アートをダブルにすればより多くの方に興味を持っていただけるのでは、と考えて。観光客が通り過ぎる傾向にある長生郡市は、知名度をあげることが1つの課題。時間はかかるけど、アートという要素でも情報を発信し、地域のために少しでもお役に立てないかと思っています」
 そんな清野さんが最近、新たに取り組んでいるのは、和紙へのプリント。「高性能となったカメラでは誰でもシャッターボタンを押すだけで綺麗な写真が撮れます。デジカメの時代になり、画質や色調はじめ様々な修正を施せるようにもなりました。それは時代の流れで仕方がないとは思いつつ、では自分は何のために写真を撮っているのかとふと思ったわけです。同時に、絵画に比べ写真の価値が圧倒的に低い現実を認識し、行きついたのが、絵に近い写真。写真の構図によって向き不向きがあり紙のチョイスも難しいのですが、和紙にプリントした写真は絵画調で独特の趣が出るんですよ」
 「撮影経験を積むことで作風が変わってくる」という清野さんは「自分の感性をいかに育てるか、それが自らの写真に反映される」と語る。人の心に残り、感動してもらえる写真を数多く残すことを目標に、これからも撮影活動を続ける。

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