作品から感じる音

表情の豊かさで臨場感を表現

 とにかく子どもの頃から形あるものを作るのが好きだったと語るのは、大住泰史さん(75)。中学生の頃は図工クラブに入り、彫塑を作っていた。彫塑とは粘土で人の顔や像を作り、それを石膏に置き換えたりする造形物や、それから型を取り鋳物にした像のことを指す。
 高校生になっても製作は続けていたが、社会人になり仕事の忙しさで中断してしまった。30才の半ば、知り合いに誘われ、再び制作を始めることにした。その後、定年を機に東京から御宿町に移り住んだのは15年前。午前中、畑仕事をし、午後の34時間を制作に当てている。大のクラシックファンの大住さんが作るのは、殆どがヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、ハープ、チェロなど楽器を奏でる人の像。もちろん楽器も、その細部にまでこだわって作っている。
 「まず首から上を作りますが、傾きを考え、顔の表情、特に目の方向に時間をかけます。その後、首から胴、腕は途中まで、足は足首まで、手の甲までを作ります。お尻や胸など見えない部分も精密に作り、楽器を持たせて衣装を着せます。そうすることで、人の骨格や体の動きがより実際的に表現できると思っています」。最後に指を作るが、楽器を奏でる形にするのが難しい。例えばヴァイオリンだと、弦を押さえる指や、楽器の大きさに合わせて腕の長さがぴったり合わなければ仕上がらない。細かい部分を無理に曲げると粘土の密度の違いで取れてしまうのだという。
 また本体は空洞にし、焼く時にヒビが入ったり、破裂するのを防ぐ必要もあるそうだ。「こんな作品は他に見たことがないとよく言われます。モデルがいるわけではなく、東京に住んでいた時にたくさんのコンサートに行った経験を基に、イメージだけで形を作っています」
 本体が完成したら、色が定着しやすいように素焼きする。彩色の方法は釉薬や化粧土、本焼きしても色が付けられる下絵の具を使う。肌の質感やドレスなど色の付け方が違うので繊細な作業が必要になってくる。大住さんの目標は、演奏している音楽を奏でているその時々の瞬間を形にし、できたものを見て音楽を感じられる作品を作ること。初めての展示会を御宿町内のギャラリーで開催したが、今後は東京など他の場所でも行いたいと考えている。

問合せ 大住泰史さん
TEL 0470・68・3118

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】第1回プロジェクトチームのメンバー。前列中央は小出市原市長  市原市は2021年5月、内閣府から『SDGs未来都市…
  2.  飛鳥時代から連綿と紡がれてきた日本刺繍の世界。繊維の宝石と呼ばれる絹地に、光沢のある絹糸で一針ひとはり刺して作る刺繍は、繊細で緻密、鮮やか…
  3. 【写真】昨年の慰霊顕彰と生誕祭  4月1日(土)長柄町高山で、同町出身・大田實海軍中将(享年54歳)の慰霊顕彰と生誕祭が開…
  4.  日本百景のひとつ、茂原公園の満開の桜。春爛漫の風景が堪能できる『茂原桜まつり』の期間中、3年ぶりに『茂原公園・桜の山の春の市』が開催されま…
  5.  読者の方々から映画に関するお問合せが多く寄せられましたので、今年度より「懐かしのシネマ」がスタートいたします。洋画・邦画・監督・俳優等、素…
  6.  昨年のゴールデンウイークに友人から「ウメハルシメジが公園に出たよ」と連絡がありました。ウメハルシメジはまだ見たことがないキノコです。さっそ…
  7.  昨年11月、市原市能満に市原歴史博物館がオープンした。これは既存の市原市埋蔵文化調査センターを増改築した施設で、愛称は『I’Museum …
  8.  御十八夜は市原市の中心に位置する米沢の森の標高162・3mの山頂で、晴れた日には東京湾やスカイツリー、北は筑波山、富士山、南アルプスや鹿野…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】第1回プロジェクトチームのメンバー。前列中央は小出市原市長  市原市は2021年5月、内閣府から『SDGs未来都市…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る