壊れかけた物に再び命を吹き込む

木本 義昭さん

 市原市在住の木本義昭さん(87)は、漆器陶器木工品など骨董品の修理を長年趣味および生きがいに生活している。大きく欠けた陶器の食器や装飾の貝が剥落した螺鈿の火鉢。船の中で金庫の用途で使われていた鍵付きの木箱や足を失った椅子。長い時間をかけて、どこか一部を破損してしまった物たちが、木本さんの手によって新しい命を吹き込まれていく。
 「百年以上の時を越えたような、古いものが好きです。特に武士が生きた時代は話を聞くことはもちろん、刀などを見るのが楽しいですね」と話す、木本さん。愛媛県今治市出身で、幼少時代は実家近くにある神社に保管されている多くの刀や鎧を見に行ったとか。
 工業高校を卒業し、丸善石油松山製油所に入社した木本さんは電気関係の仕事に就いた。その後、同郷だった妻の幸江さんと結婚し松山で3年暮らした後、同社の千葉製油所建設に伴い昭和37年、市原市へ移住した。「建設が落ち着いた40歳過ぎの頃、知り合いに鎌倉で行われている刀の鑑定倶楽部を紹介してもらったんです。会員は30名程度で、有名な先生の元で国宝の鑑定も経験できました。手が震えるほど緊張したのを覚えています」と、木本さんは笑う。
 月に2回、鎌倉へ通っては1日かけて鑑定の勉強をした。偶然にも、市原の自宅近所に刀を扱う人がいたことも幸運だった。「その先生の所で刀の研ぎと鞘造りなどの全てを習いました。公民館の講座で蒔絵を習ったこともあり、刀を覆う拵えに蒔絵で家紋を入れる仕事を請け負ったりもしていました」という。
 幸江さんは2人の娘を育てながら、そんな木本さんを支え続けた。「骨董品の皿や武具を手に入れてくると、2階の作業部屋で修理をしています。私、作業中は邪魔しないようにしているんですが、違った形で一緒に楽しんでいます」と話す。というのも、幸江さんは趣味で40年近く絵画を続けている。構図や色遣いを考えるのは得意で、木本さんに常にアドバイスしてきた。
 「修理をするにしても、色を上書きするだけではありません。どんな風に味わいを加えて修理しようかと想像するのが面白いのです。私が物を修理したことで、さらに数10年の命が続くのかと思うとワクワクします」と、木本さんは少年のように目を輝かせた。修理方法として主なのは金継ぎだ。小さな欠損であれば、接着剤で補修し漆を塗り、平らにしてから金をつける。場合によっては銀をほどこすこともあるが、いずれにしても修理方法は独学で身につけてきた。冒頭に出たような大きく一部を失った陶器の場合は、欠損部分を木で作り、接着剤で張付けて漆を塗り装飾する。実質、陶器と木の融合作品が出来上がっているのだが、見た目では全く分からないほど陶器の一部となっている。
 骨董品を入手するルートは、ほとんどが自宅近くにある骨董品リサイクルショップ。「古いものを直してどうするんだ」と、言われることもあるという。だが、修理こそが木本さんの幸せを多く生み出してきたといっても過言ではない。

人に喜ばれる幸せ

 今では3人のひ孫にも恵まれ、毎日を穏やかに過ごしている木本さん。娘たちの結婚や自身が患った心臓の病など、家族内で転機や悩みがあったのも当然のこと。「それでも、やはり絆を深めてくれたのは工芸品の修理のおかげです。妻は私の趣味を理解してくれ、鎌倉の鑑定倶楽部に行くことに文句一つ言わないで送りだしてくれました。そして、私の修理した作品をモチーフに絵も描いてくれます。作品について語り合うことで、会話もたくさんしてこられたのだと思います」と、感慨深げだ。
 最近は、手のひらほどの手持ち鏡の裏に装飾をほどこし、ひ孫にプレゼントするため用意している。鏡を入れるための袋は幸江さんが刺繍して、女の子が喜ぶ可愛らしさだ。「修理した工芸品の多くは人にプレゼントしています。驚いたり、喜んでくれたりする顔を見るだけで、長生きできる気がするんです」と語る木本さん。
 夫婦2人でコミュニティセンターの講座に参加して和菓子作りを学んだり、加曾利貝塚に行って縄文土器を作ったりした。様々な場所で知識を深め、人との出会いを増やしたことが、さらに新たな出会いを生んだという。「妻と結婚して、工芸品の修理もできて本当に幸せです。あとは、この技術を誰かに受け継いでもらえたら嬉しいですね」と、最後に笑顔を見せた。修理した物の一部は木本さんの自宅にて閲覧可能。他、詳細は問合せを。

問合せ 木本さん
TEL 0436・36・4158

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