温故知新 里山に学ぶ『千葉県長南町 里山ぐらしの今昔』~長南文庫プロジェクト~【長南町】

【写真】竹之内さん(中央)と田島俊介さん・幸子さん

 

 長南町豊原に生まれ育った竹之内義郎さんが、時代と共に変遷した里山の暮らしを綴った『千葉県長南町 里山ぐらしの今昔』が、昨年2月『長南文庫プロジェクト』から出版された。里山は、使用エネルギーの大半が石油へと推移した昭和30年代を境に、その姿を劇的に変化させた。同書は荒廃していく里山の現状を踏まえながら、人が里山を活かし、里山に生かされていた、かつての農村の生活を振り返る。『何が失われたかを考えることは同時に未来の可能性を探ること』。第1章に記されている一節だ。

人の暮らしと自然

昔の田植えの様子・1985年頃・山形さん撮

 房総丘陵の深い緑に抱かれる長南町では、山々の裾野に広がる里山で人々の生活が営まれてきた。竹之内さんは、日中戦争が始まった昭和12年(1937年)の生まれ。戦中戦後の物の無い時代に幼少期を過ごし、やがて日本が高度経済成長に沸く中、大学を卒業し、千葉県農業協同組合中央会に勤務した。退職後は農産物直売所の運営や、都市部からの農業体験者受け入れなど、地域の活動に勤しんできた。

『自然のダイナミズム』を全身で感じながら育った竹之内さんの子ども時代。『不思議なことに物の無い当時の生活は、苦しい思い出より楽しい思い出の方が大きいのです』と同書にある。さらに、皆お腹を空かせ自然のあらゆるものを食べたこと、堰(せき)で飛び込みや水泳をしたこと、毎月のように行われた祭りの思い出などが書き綴られる。里山は、そこに暮らす人々の命綱とも言える存在だった。食料だけでなく、農業や生活に欠かせない水、住居のための木材、生活用具や農業用具の素材、煮炊きや風呂、暖房用の薪や炭といった燃料材などの供給源だった。『春夏秋冬、里山の自然資源を最大限に活用し、過去に蓄積された智恵を活かした生活でした』。ところが、何一つ無駄にされることなく循環していた里山は、食料や燃料、生活用品がお金を出せば簡単に手に入るようになる高度経済成長期に、人々の生活と切り離されてしまう。離農が進み、休耕田や耕作放棄地が増加する現状からの方向転換は極めて困難だろうと、本文には深い憂いの気持ちが込められている。竹之内さんは、「誰かが読んで自分の記憶と重ね合わせてくれたら。そして単なる追慕だけではなく、現代に当てはめ取り入れられるところは取り入れ、行動を変えていく一助になれば幸い」と語る。

世代を超えた交流

「堰のあそび」イラスト・中田有華さん

『千葉県長南町 里山ぐらしの今昔』(A5判116頁)の出版に携わったのは、田島俊介さんと妻の幸子さん。共に町外からの移住者で、俊介さんは林業を営み、幸子さんは長南町地域おこし協力隊の一員として活動している。田島さん夫妻と竹之内さんの出会いのきっかけは、ある会報誌に連載されていた竹之内さんの寄稿文が俊介さんの目に留まったこと。「素晴らしい文章に心打たれて、一気に全部読みました」。その後幸子さんもその手記に触れ、深く感動したことから、竹之内さんに書籍化の話を持ち掛けた。「元の原稿に加筆修正し、更に1章書き加えてくださることになり、とても嬉しかったです」。出版へ向け『長南文庫プロジェクト』を立ち上げ、『長南町まちづくり町民提案事業』として補助金が交付された。

 同書には文章に合わせ、50点近い写真と4点の挿絵も掲載されている。俊介さんは、「文章を読んで、写真が欲しいなという箇所をピックアップしました。文中にある『改良かまど』を探していたら、たまたま立ち寄ったご近所のお宅にあったので写真を撮らせていただいたこともありました」と、説明する。写真は田島さん夫妻のほかに、長南町郷土資料館、茂原市教育委員会、竹之内さんの知人の山形俊男さんから提供を受けた。「挿絵は、同じく移住者の中田有華さんです。竹之内さん宅で一緒に話をきき、イメージを膨らませて描いてもらいました」。

 昨年3月には、長南町地域おこし協力隊主催で同書を題材に竹之内さんの『お話会』が開催された。幸子さんは、「子育て世代から80代の方まで幅広い世代の方々が、町内外から50名も参加してくださいました。参加者からは『竹之内さんからもっと色々なことを教えてもらいたい』『自然と調和した自給自足の暮らしはこれからの時代にこそ必要とされる』など、沢山の感想をいただきました」と話す。

茅葺屋根を補修する匠・田島俊介さん撮

「竹之内さんのように文章を書ける方はなかなかいません。竹之内さんに伺うお話は、手記の内容に留まらず多岐にわたります。それを長南文庫の第2弾として出版できたら嬉しいです」と、俊介さん。竹之内さんは、「皆さんに知ってもらいたいことはまだまだ沢山あります。今度は、山の持っている多面的な役割を人間がどう活用してきたか書くことができたらと思っています」。同書は1冊1200円(税込)で発売中(送料別)。長南町内では、『田園カフェ』『東モータース商会』『八兵衛珈琲 焙煎工房』『加納商店(出光ガソリンスタンド)』で購入可。詳しくは問合せを。

 

問合せ:田島俊介さん
Tel.090・5777・8962

問合せ:田島幸子さん
Tel.090・8037・3006
メール:chonan.bunko@gmail.com
HP:https://chonan-bunko.jimdofree.com/

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】『音楽堂in市原《私の十八番》ガラコンサート』にて。ヴァィオリン・川井郁子さん、ピアノ・熊本マリさん  市原市市制…
  2. ホソミオツネントンボ(越冬中)  日本では200種ほどのトンボが生息しているとされています。主に、春から秋に観察でき、身近…
  3. 【写真】いちはらフィールドマップ巡り・市原にて  市原市姉崎在住の石黒修一さん(76)は、『地域を知り・守り・愛する』とい…
  4.  近年、湾岸沿いの工場夜景が注目され、ナイトクルーズが運航されるほどになっていますが、多くの石油・化学工場が林立する市原市の五井・姉崎海岸付…
  5. 【写真】ダリア花(茂原市立美術館蔵)  2月14日(水)~3月24日(日)、茂原市立美術館で、千葉県誕生150周年記念事業…
  6.  今回は、自分の好きなベストスリーに入る監督を取り上げます。読者の方々には、作品は知っているけれど、監督には馴染みがない、という方もいらっし…
  7.  今回と次回で、未来の話をしたいと思います。今世紀の中頃までに世界の人口は100億人を超えると言われています。気候変動により農作物の生産がま…
  8. 【写真】人々に語りかける中村医師 写真提供:PMS(平和医療団・日本)  昨年11月25日、ちはら台コミュニティセンター(…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】『音楽堂in市原《私の十八番》ガラコンサート』にて。ヴァィオリン・川井郁子さん、ピアノ・熊本マリさん  市原市市制…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る