人と人をつなぐ 古民家『布の里工房』
- 2013/12/20
- 市原版
人と人をつなぐ
古民家『布の里工房』
「前を通るたびに惹かれた」と話すのは織物作家堀真澄さん(50)。関東の駅百選に認定された上総鶴舞駅から1キロほど北の市原市久保。小湊鉄道の線路に沿った道路から見下ろせる場所に、緑に覆われた素朴な佇まいの古民家『布の里工房』がある。堀さんは20年ほど前、市原市池和田に自宅を構え、織物を作るかたわら、公民館で教えてきた。高滝ダム方面へ行くたびに気になっていたのが昔ながらの小さな農家。5年前、思い切って家主に声をかけると、「誰も住んでいないので自由に使って下さい」との快い返事をもらった。
家の手入れは家族で楽しみながら少しずつ進めた。重い織り機を置くため床下の横木や板を取り換え、床の一部はコルクに。細かい作業ができるように蛍光灯をつけ、簡易水洗トイレを新設した。土壁に穴を開け、土間に薪ストーブも設置。築88年の一軒家は工房兼教室として生き返った。「インテリアや使い方を考えるのが楽しい」と堀さんは微笑む。自宅の駐車場で使っていた染色用鍋の大きなコンロは土間に置いたままにできる。たて糸をかけた織り機は昔からそこにあったよう。使い込まれた柱や長押に手織り品を飾るとより一層映えた。家の前を耕して育てた藍で染めたり、綿を布に織り込んだり。クリ、フキ、ヤシャブシなど周辺の豊かな自然が与えてくれる染めの材料にもことかかない。「桜の枝が折れたから」と声をかけてくれる人もいる。生徒と一緒に焼き芋をすることもあるという。「ここにいるだけでほっこりできる」
田舎暮らしの原点は青年海外協力隊として織物を教えに行ったスリランカ。人々は貧しくても助け合い、堀さんを温かくもてなしてくれた。「時間がゆったり流れていた」と懐かしそうに振り返る。国展や県展で絣の帯やタペストリーが入選するほどの腕前を持つ一方で、柿渋染めのバックや羊毛のストラップなどさまざまな小品も作る。「機の上で死にたい思うほど織物が好き。ここでオリジナリティのある作品を生み出せたら」と感性を触発されている。しかし、コツコツと一人で糸と向き合う時間が長いので人恋しくなることも。「裂き織や古い着物のリメイクなど生活に根付いた布を通して人と人が出会うサロンにできたら。主婦なのでレシピを交換したり、たわいないおしゃべりもしたい」と飾り気のない笑顔で話す。
3月に始まる『いちはらアート×ミックス』の会期中に古民家で展示会を開く。タイトルは『ザ・ベスト展(テン)』。「生徒たちとベストを展示し、訪れた人に好きな作品に投票してもらうという趣向。ただ、作品を眺めるだけではなく、自分のお気に入りの一着を選んで、こんなふうに着たいとかイメージをふくらませてほしい」と楽しそうに語る。詳細は2月にブログ『布の里日記』で告知予定。古民家は普段不定期で開けている。教室参加、織物体験などしたい方は事前に連絡を。ランチョンマット(2千円)なら2時間で完成する。
問合せ 堀さん
TEL 090・4709・8062