正々堂々と正面から勝負 全国中学校剣道大会個人戦優勝

岩切勇磨さん(中学3年生)

 得意な技は面。正面から正々堂々と勝負に出る。8月の全国中学校剣道大会個人戦で優勝を果たした勝浦市立勝浦中学校3年生、岩切勇磨さんの剣道だ。
 昨秋の新人戦から無敗、同大会でも7連勝という好成績で中学生日本一を勝ち取った。身長173センチ、体重70キロと体格もよく、中学生とは思えぬ風格の持ち主。「打たれていた感じはなかった」と話す同中学剣道部顧問の渡辺国剛教諭の言葉とは裏腹に「勝ち進むにつれて強い相手と戦うことになる。何とか勝った感じです」と謙虚に話す。決勝の対戦相手は九州中学校剣道大会の個人優勝者だった。「緊張はしませんでした。毎日一生懸命練習していたので自信はありました。一戦一戦、目の前の相手と戦うことだけを考え、負けても勝っても最後、思い切ってやろうという気持ちで臨みました」。優勝が決まったときは「初めは実感がわきませんでしたが、中学最後の大会にかけていた気持ちは大きかったので、とても嬉しかった」と落ち着いた笑顔で話す。
 剣道を始めたのは小1の時。父親の公治さんは国際武道大学の教授で2人の兄も剣道を習っていた。「自分もやりたい」と近所にある日本武道館研修センターへ通うように。だが、同センターは勝敗にこだわるより、正面、小手、胴の一本打ちといった基本打ちをしっかりと身につける方針。基本練習が中心だったため、小学生高学年の頃は「試合に勝てなくて悔しかった」と振り返る。剣道生活において辛かったのはその一時だけ。いくら練習がきつくてもやめたいと思ったことはない。
 そして中学に入学し、同剣道部に入部。全国大会当時の部員は3学年男女合わせて16人だった。少人数である上に初心者が多い。キャプテンとして「みんなをまとめ、技術を教えながら自分もレベルアップしていくのは難しかった」と話す。放課後2時間半の部活動をこなしたあとで同研修センターへ足を運び、さらに2時間、父親の教え子など剣道家の大人たちに囲まれて練習に励んだという。
「私立だと、1学年に7、8人はライバルがいる。人数が少なく、周囲はほとんどが初心者だという同部の環境で彼が勝ち続けてきたのは、強靭な精神力と剣道にかける思いの強さですね」と渡辺教諭。
 5人で戦う団体戦では、前の4人が何とか踏ん張り、5人目、大将の岩切さんに繋げる戦法が功を奏して、2年連続、関東大会へ出場することができた。「初心者ながら、みんなが必死に僕までつないでくれた。自分1人が勝つのではなく、みんなで上を目指したかったのでよかった」と語る岩切さん率いる剣道部の練習は正面から切り出す基本打ちばかり。彼が小学校の頃から習得してきた剣道だ。守りから入り、相手が避けたら打つといった小技は一切使わない。面は力強い有効打突だが、同時に隙もできる。強くても、気を緩めた一瞬に小手や胴で当てられる時も。相手が攻めてくるのを待つのではなく、自分から攻め、技を出すというのが岩切さんの剣道だが、「同じように正面から向かってくる相手だといいのですが、守りながら小技を使ってくる相手だと戦いづらい」と苦笑する。
 同剣道部は引退したが、なかなか手厳しいキャプテンだった。部員が辛い練習に耐えかねて泣いていても「泣いたら勝てるのか?誰も助けてくれないぞ」強い言葉で叱ることはあっても絶対に慰めたりはしない。男女問わず妥協は許さない。だが、練習が終わると一転、笑顔で「今日はよかったよ」と声をかける。研修センターでは子ども達の面倒見もよく、小学生から「お兄ちゃん」と慕われているのだとか。「やる気がないときには声をかけて盛り上げてくれます。悪いときには叱ってくれて、いいところは褒めてくれる、そんな先輩でした」と2年生の女子。
 面をつけるとスイッチが入り、笑顔を封じ込める。修学旅行から帰ってきて疲れていても、トレーニングのためのマラソンは休まないなどストイックな性格。一方で試合後、面を取ると相手に笑顔で話しかけたりする一面も。息抜きには球技をしたり、映画を観たりすることが好きだという。
 剣道とは、相手を叩きのめすためのものではない。自分自身が強くなって弱きを守るためのもの。礼儀と礼節を重んじ、人を裏切らない、誠意をつくすといったことが剣道の究極の精神である。自分の腕を磨くことだけを考えるのではなく、自分の持つ技術を部員と共有することで「己の努力が周囲に帰ればいい、岩切くんはお父様と同じ考え方です。剣道を正しく理解し、純粋に楽しんでいると言えますね」と渡辺教諭。
 小学校で身につけた基本は決して無駄ではなかった。真っ向勝負の剣道がここに来て実を結んだといえるだろう。次に目指すは高校日本一だ。

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