文と絵 山口高弘

 ニセモノが本物を超えることがあります。高校生の頃でした。友人が突然、仲間を集めました。「両親が留守だから俺の家に来いよ。もんじゃ焼き作ろうぜ!」集まった男5人で、自転車でスーパーマーケットに買い出しに行きました。
「どうやって作るんだ?」仲間の一人が尋ねると、言い出しっぺは鼻で笑いました。「俺が知ってると思うか?」皆クスクスと笑って、思いつくままにショッピングカートに食材を積み上げました。レシピなんて調べない。もんじゃ焼きって何だっけ。全員が分かっていました。『知らない方が楽しい』と。
 友人宅のリビングで、ホットプレートに食材が乗せられました。一応、キャベツは千切りに。味付けはソースとマヨネーズ。具は「なんとなく豪華に」、車エビ。「土手を作るんだろ?」「土手?」「キャベツを寄せるんだよ」
 プレートの片隅に一直線にキャベツが寄せられて、万里の長城みたいになりました。黒光りしていた車エビが、だんだん赤くなっていく。「甘みがほしいな。ああ砂糖が見つからない」家の主が、ごそごそと冷蔵庫から『代用品』を持ってきました。「エクレアで!」
 かくして、『もんじゃ焼き』が出来上がりました。「不味い」「生焼けだ」「混ぜろ、いや混ぜるな」リビングに悲鳴が響きます。誰かがセクシーなビデオを放映し始めて、「画面を見たら負け」という暗黙のゲームが始まりました。
 あれから十五年後のこの秋、僕はあの言い出しっぺの友人と再会しました。しかし、「酒の締めにタクシー飛ばして、もんじゃ焼きの店行こう!」とはなりませんでした。僕らにとっての『本物の』もんじゃ焼きは、しなだれたキャベツの脇に車エビとエクレアがだらしなく転がった、セクシーな声のする食べ物だからです。

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