- Home
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
- 「僕たちは水の循環で誕生する」~海は生命誕生の源~
「僕たちは水の循環で誕生する」~海は生命誕生の源~
- 2016/9/15
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
アーティスト ダイキ セキネさん(いすみ市大原)
下書きはしない。キャンバスに絵筆をのせると、一気に描き進めていく。筆先から生み出される生物や模様は次々と形を変え完結する。ダイキ セキネさん(34)ならではの予想もつかない展開で描かれた作品に観る者は圧倒され引き込まれる。市外から移住してくるアーティストも多い、いすみエリアで今注目を浴びている若手作家のダイキさん。地元大原出身でイセエビ漁師の家に生まれた海を愛し、素潜りを楽しむ「海の男」だ。
絵を描く喜びに目覚めたのは小学2年生の頃。クラスメイトと漫画の延長で絵を描いては見せ合っていた。小学6年生の時、『第16回全国海の子絵画展』(全国漁業協同組合連合会主催)に、大原はだか祭りの絵を出展したところ、見事、同展会長賞受賞。
その後、家業のイセエビ漁を手伝いながら、様々な仕事に就いたが、常に「これでいいのか?なんとか絵で食べていけないか」という思いが頭から離れず、絵は描き続けてきた。しかし、現実は厳しく、なかなか世に出るチャンスに恵まれなかった。一方で中学生の頃から弾き始めていたギター演奏を再開し、ライブ活動も行っていた。
そうした日々を送るなか「自分の力で生きてゆくという力を叩き込まれた。育ての親のような存在」と思えるような地元のバーのオーナーと出会った。「この店で働きたいとオーナーに頼んだが、まだ未熟だからダメだと言われ、何年かライブ活動をしたのちに、ようやく『そろそろウチで働いていいぞ』と言われた」。オーナーからバーとタコス店を任され働いていた27歳のとき転機が訪れた。たまたまベッドに横たわり、自分の足を見るとはなく見ていた。フッと『足型キリン』が閃いた。「足の裏をキリンの顔に見立てたら、どうだろう?と。甥っ子の1歳のバースデーのお祝いに、足型をとってキリンの絵にしてプレゼントした」。周囲には大好評だった。「これはイケるかも」とネット販売を始めたら反響は大きかった。オーダーが殺到した。「生活していける」と確信が持て専業でやることを決意。28歳の時に、世話になったバーを辞め、東京進出を考えて都内青山のバーで働き、何度か作品展も開催した。
そして昨年、夷隅郡御宿町にあるカフェバーギャラリー『ヨルダーン』のマネージャーを任され、アトリエも店に移した。「制作活動、バーテン業、展示と、これまでの自分の集大成のような環境ですね」と嬉しそうに話す。環境の変化と共に、「今一番影響を受けているのはミズ・テツオさん(海洋で使われる信号旗のアルファベットをベースにして新たな絵画空間を創造するフラッグシリーズで高い評価を受け国際舞台で活躍している画家)。アトリエに来てくれたり、一緒にデッサンしようと誘ってくれたりなど、おつき合いさせていただいてます。ミズさんの絵は生きている。絵にかける情熱もすごい」と心酔している大先輩に触発され自身の作風について省みることも。
「以前の自分は鮮やかな色づかいでインパクトのある作品づくりをしてきた。でも、自分イコール色という印象をもたれることに疑問を持つようになってきた。色がなかったら自分って何なんだ?と考えて…。それでモノクロの絵画を描いてみようと思いました」更に、最近よく描くのが妊婦の身体。「とても関心があります。流行のポートレート風に撮影された妊婦の写真には興味はないですが、日常の中で見かける妊婦の姿に惹かれます」
妊婦作品は、今年6月から7月にかけて長生郡一宮町のATLANTIKC COFFEE STANDで開催した作品展『Water(水)』でも展示。ダイキさんは「我々が、水だった頃の記憶」等の作品について、縄文の出産土器(人面把手付き深鉢)を見てインスピレーションを得たという。妊婦の腹部には羊水に包まれている胎児が描かれている。「我々が、水だった頃の記憶」とは、人間は水の中で誕生した生命を受け継いだ生き物であり、人間の身体の半分以上は水が占めていることから、展示会の名前を『Water(水)』とした。
「今回の展示会では水のお化けを描いた作品も多く展示しました。自分は水びと。水が化けて人間になっている。僕たちは水のお化け。雨の一粒も自分。自分が亡くなったら火葬され、気体になり雲となり雨となる。水の循環で僕たちは出来上がっているというのが持論。子どもが生まれてから段々と生命と水の関係を考えるようになり、ライフワークになった。これからもずっと水について疑問を持ち、追求していきたい」と語る。
ダイキさんの作品を観たい方は彼の仕事場である御宿のカフェバーギャラリーヨルダーンに問い合わせを。同店ギャラリーにも作品展示あり。また、袖ケ浦市のドイツ村スポーツランド内無料休憩所に今年3月オープンしたボルダリングコーナーの壁面に描かれた絵は彼の作品だ。現時点での目標は「海外進出。個展を開きたい」とのこと。
問合せ
カフェバー ギャラリー ヨルダーン(夷隅郡御宿町須賀443-4 御宿郵便局並び)
TEL 0470・62・5420