小さな家庭の延長 高齢者の母、姉妹や子どもとして介護に生きる

社会福祉法人長生共楽園 前副施設長 坂下晴美さん

 平成元年に『老いの旅路 老人福祉の現場から』(筒井書房)を出版した社会福祉法人長生共楽園養護老人ホーム勤務の坂下晴美さん(69)が同書の『パートⅡ』を昨年9月に書き上げた。著書には「苦労してきた入居者も多い。人生の最後を有意義な時間で満たされるように手助けしたい」との思いがあふれている。今回の介護現場の実話は詐欺、虐待、恋愛など26年前とは様変わりした社会も映し出す形となった。「多くの方に読んでいただきたいと茂原市内の図書館に寄贈しました」
 市役所に勤務していた坂下さんが市の福祉事務所の老人福祉ワーカーになったのは昭和43年、23歳。自宅で暮らすことが困難になった老人を何度も訪ねたり、見学を促したりして養護老人ホームに入居してもらう仕事だ。「入居当日、さあ出発となると、玄関にしがみつき、行きたくないと言い出す方もいました」と思い出すように話す。「無理強いしたのではないか、同室になった方とうまくいっているかなど気になってしかたありませんでした」。しばらくして会いに行き、「良いところに入れてくれた」と笑顔で話すのを見て「ああ良かったと安心しました」
 昭和55年、市役所を退職し、現在の勤務先に移った。移ることに迷いがあったが、同僚から「老人福祉の仕事に向いている」と勧められ、素直に勤めることにしたそうだ。このころ、施設はほとんど個室になり、自宅のように居心地がよくなった。入居をためらう高齢者には「早く入ればいいのにと思うくらい建物も設備も良くなりましたよ」と微笑む。
 借金で身動きが取れない、騙されてお金を失った、身近な者による虐待など様々な問題を抱えた老人たちに献身的に尽くしてきた坂下さん。お年寄りから頼りにされているが、介護の現実はいいことばかりではない。園でもトラブルは起こる。そんなとき坂下さんはまず相手の立場になり、ほめてから注意するそうだ。「いつも穏やかなのに今日はどうしたの」とよく話しを聞く。認知症で「ご飯を食べていない」という人には「さっき食べましたよ」ではなく、「じゃあ食堂に行きましょう」、「きっと食事ができたと声をかけるのを忘れてしまったのね」、「それでは、おにぎりをあげましょう」と優しく接する。「認知症にお説教は禁物」。簡単でわかりやすく説明すれば納得してくれそうだ。このような対応ができるのも「今までの経験の積み重ね。お年寄りとともに一つ一つ悩みながら一生懸命取り組んできただけ」と謙虚に語る。
 核家族で育ち、若い頃はお年寄りのいる家庭にあこがれ、三世代が住む農家に嫁いだ。義母は結婚9年目で亡くなり、90代の祖母が働く坂下さんの幼い子どもたちの世話をしてくれた。ところが祖母は99歳で認知症を発症。定時に帰っても「こんなに遅くまでどこに行っていた」、「ご飯を食べていない」などと言うようになった。何かあってはいけないとガスを止めて仕事に出ると、近所に「孫、嫁にガスを止められた」と訴えた。加えて、仕事の合間を縫って行う、近くに住む実父の世話も重なった。一時は夫や子どもが心配するほど追いつめられたという。けれど、最後までやり遂げ、「悔いなく介護できました」と晴れ晴れとした表情で語る。
 ホームは小さな家庭の延長。園の入居者にも家族のように接する。「家で寝ていても園のことで頭がいっぱい」と責任感が強い。「相手にのめり込み過ぎる性格なのかもしれません」と笑う。古希のお祝いに本書を発行し、園を辞めようと思ったが、「明日来るの」と聞く老人たちがつなぎとめる。
 ホームの入居者でつくる自治会『なかよし会』の役員、穐葉さん(66)、実方さん(71)、太田さん(80)は坂下さんについて「細かいところまで配慮して下さる。母親以上の存在」と話す。著書からは真摯にお年寄りと向き合う一面しか伺えないが、「ユーモアのセンスもある」という。ときにはイベントの司会を務めたり、島倉千代子の『東京だヨおっ母さん』をカラオケで熱唱したりする。葬儀代を出せないお年寄りのため、お経をあげ、葬儀も執り行うそうだ。
 今、一番心配なのは「人手不足」。経験、資格は必要ない。年齢不問。60代、70代の高齢のパート職員も募集している。「自分が介護する立場される立場になったときの参考になりますよ」とのこと。

問合せ 長生共楽園
TEL 0475・24・2207

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