キッシュに注ぐ情熱の火は、これからも続く

キッシュ研究家 嶋崎 裕巳 さん

 茂原市在住の嶋崎裕巳さん(66)はフランスの郷土料理であるキッシュ研究家として活躍している。キッシュとはパイ生地、タルト生地の中に卵や生クリーム、チーズと共に野菜や肉を入れオーブンで焼く料理のこと。「日本でいう肉じゃがのように、フランスではお母さんが簡単に作ってくれる一品という感じです。私は日本人の味覚に合うキッシュを作りたくて随分試行錯誤を続けました」と振り返る。
 嶋崎さんは東京都出身。結婚を機に千葉県松戸市へ移った。出産し、子育てをしながらも都内の広告代理店に勤務し続け、50歳を迎えての早期退職。それは、「ずっと自分でカフェをやるのが夢だった」からだ。勉強のため、ニューヨークでカフェ巡りの旅をしたこともある。そんな中、キッシュに目をつけた大きなきっかけは、娘さんたちと行ったフランスへの海外旅行だった。本場で食べるキッシュは少々重たい感じが強く、胃もたれすることがあった。しかし、コーヒーと共に軽食として出せば流行るのではないだろうかと着想した。15年ほど前、日本ではあまり浸透していなかったキッシュだったが、嶋崎さんの心は決まった。日本在住のフランス人の友人に、基本的なキッシュの作り方を教わると、改良を重ねる日々が始まった。
 「当時、娘は20代半ばで仕事をしていたんですが、カフェの経営は共通の夢でもありました。仕事が終わると、二人でキッシュを作りました」という嶋崎さんだが、親子だったために「お互いに本気。味覚や食感に対して、遠慮なく意見をぶつけ合いました。今思うと、とても充実した日々だったと思います」と、懐かしむ。
 キッシュの具材は様々で、季節を通して楽しめる。春キャベツや枝豆、茄子やズッキーニ。カボチャやキノコ、里芋や蓮根など旬の野菜を使うのも魅力だ。「その後、住んでいた松戸市から通える葛飾区柴又の古民家を借りて娘と一緒にカフェをオープンしました。全面的に改装して、イギリスの床屋で使われていたアンティークのドアを取り付けたり」と、まさに夢の叶った瞬間だった。
 しかし、2011年3月。東日本大震災で大きく揺れた古民家の壁に亀裂が入った。オープンから3年、リピート客も増え、売上も軌道に乗ってきていた頃だったが、家主からの建て替えの要請があり、やむを得ず閉店した。だが、嶋崎さんは諦めなかった。「その頃、実家が埼玉県三郷市に移っていたんですが庭に小屋を建てさせてもらって、キッシュ工房を始めました。飲食店のような提供はできないけれど、また食べたいといってくれた方たちのために、配達で販売していたんです」と話す。目的はひとつ。自分の作ったキッシュを美味しいと食べてもらいたいからだ。

夢は人を強くする

 長く会社員として勤め、その後はカフェの経営に奔走した女性。強くたくましい印象の嶋崎さんだが、「実は、私結構おっちょこちょいなんですよ」と柔らかく笑う可愛らしい一面もある。「キッシュなのにチーズをいれずに焼いてしまって、お客さんが取りに来る直前に気づいたこともありました。それに、イベントに出展する時は車で移動するんですが、都内だと道も狭くて規制も多い。一時停止や進入禁止を見落として切符を切られちゃったことは結構あります。今では、どれも笑える話なんですけどね」と、楽しそうに振り返る。
 そんな嶋崎さんは3年前、夫の退職を機に松戸市から茂原市へ転居した。「子どもが小さい頃に勝浦の海へ行っていて、茂原を通っていました。海が近くていいな、と」いう理由での決断。今では自宅裏の畑で夫が栽培した野菜を使って、自分なりのキッシュ作りを研究し続けている。そして、県外に及ぶ注文販売を手掛けるほか、大多喜ハーブガーデンで年数回開催される『miniスターマーケット』や、近所の工務店開催の『おさんぽマルシェ』にも出展中だ。
 「私のキッシュのこだわりは第一に生地で、しつこさは最大限に控えています。次に、どのキッシュにも入れるのが飴色たまねぎ。最近は身体にいいので甘酒を混ぜたりしています。チーズも数種類入れるかな」と話す嶋崎さんは、独自で発見した隠し味さえ惜しげもなく披露する。
 2016年に家の光協会より出版した『さっくり軽いキッシュ』では約50種類のメニューが並び、ポイントを各所で紹介。昨年には中国語版で台湾でも出版され、嶋崎さんの味は世界に広がり始めている。「今は食べ物アレルギーの方も多いので、小麦粉にこだわらない新しいキッシュをさらに作っていけたら」と、抱負を語る。
 サクッとした生地にのった、ほんわりと優しい味の具材は、食べる人の心をこれからも癒していくことだろう。書籍、およびキッシュの購入についてなど詳細は問合せを。

問合せ 嶋崎さん
TEL 080・3097・0029
sweeteve-cafe8@softbank.ne.jp

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