狙うは2016年、リオでのメダル

ウィルチェアラグビー日本代表選手 官野 一彦さん

 「男なら世界一になりたい」毅然と言い放つのは袖ケ浦市在住のウィルチェアラグビー日本代表選手、キャプテンの官野一彦さん(33)。「言うだけで終わらせたくはない。周りが引くぐらい貪欲に勝ちに執着しなければメダルの取れない世界。ウィルチェアラグビーが障がい者スポーツだと言われることが悔しい」と鋭い視線で前を見つめる。
 ウィルチェアラグビーとは、車いすでぶつかり合いながら得点を競うカナダ発のスポーツ競技。2000年のシドニーパラリンピックから公式競技になった。車いす同士でのタックルが認められており、その激しさから「マーダー(殺人)ボール」との異名があるほど。バスケットボール、ラグビー、アイスホッケーの要素が組み合わさったルールで、バスケットボールのコートを使用する。球形のボールをパス、ドリブル、または膝の上に乗せてゴールラインまで運ぶと得点が入る。選手は四肢麻痺が条件で、障がいの程度により0.5点から3.5点まで7段階のクラスに分けられており、1チームを構成する4名はこの点が合計8点以内で構成されなければならない。障がいが重いほど点数が低い。機敏に回ることが可能な丸い形をしたオフェンス用の車いすと、縦にやや細長く、前面のバンパーをオフェンスの車いすに引っ掛けてブロックできるように作られたディフェンス用の車いすの2種類があり、障がいの重い人も軽い人も同じコートに立ってプレーすることができる。
 官野さんは現在、千葉市若葉区役所で勤務する傍らウィルチェアラグビーのアマチュアチーム『RIZE千葉』に所属。昨年1月に行われた第15回日本選手権で4位を獲得。個人としては同選手権で3年連続ベストプレーヤーに選ばれている。
 22歳の時、サーフィン中に事故に遭った。海底に頭を強打し頚椎を骨折。直後は「死にたいと思った」が、「好きなことをしていて怪我をしたのだから仕方がない。早く復帰したい」とリハビリを終え、2年後、友人の誘いでウィルチェアラグビーを始めた。その魅力について「見た目が派手でスピーディーなのに、車いすの微妙な動きで結果が変わってしまう繊細さも持ち合わせている。頭脳プレーも必要で、自分の性に合っています」と語る。子どもの頃からスポーツが得意だった官野さん、翌年の2007年には日本代表に選ばれた。この競技を選んだもう一つの理由は「団体で世界を目指せる競技だった」から。
 「意識が甘かった」と振り返るのは2010年のバンクーバーパラリンピックで日本代表選出から落ちたとき。「やめたいと思った。思い通りの結果が出せず、ふてくされていました」だが、そんな彼を一生懸命に支え続けたトレーナーやスタッフがいた。「元々はポジティブな性格なので、戻ってこいと言われているのだと思った」これが転機となり、自分との戦いが始まった。まず自らに課したことは、タバコをやめる、体重を落とす、トレーニングで走る量を増やす、ということ。体重は1カ月に1㎏の減量を目標とし、8㎏減らすことに成功した。スピードが足りないと感じていたので、1人でとにかく走り続けた。ハードだったが、体力がついたことが目に見えて自信となった。
 日本代表チームとしての転機も2010年のパラリンピックだった。3位でメダルを獲得したのだ。オーストラリア、カナダ、アメリカの強豪3チームの間に割って入ったことはまさしく快挙だった。ヘッドコーチにより、栄養面からトレーニング方法、メンタル面に及ぶまで抜本的な改革が行われたためだ。以降、選手の勝ちに対する欲と意識が大きく変わったという。
 2013年には日本代表のキャプテンに選ばれた。「みんなを上手くまとめ、優しい言葉をかけるようなタイプではない。ポリシーは人に厳しく、自分にはもっと厳しく」2012年のロンドンパラリンピックでは4位だった。他国の選手の体格の良さとレベルの高さを目の当たりにし、真剣に向き合わないとメダルは取れない、そう確信した。「リハビリの延長にあるような生易しい競技ではない。勝つためにできることを考え、一つひとつ実行していく。アスリートとして、人間として当たり前のこと。まずは自分が率先して、きつい練習をこなしていかなければ仲間はついてきてくれない」
 ウィルチェアラグビー以外に好きなことはと尋ねると「他のものに興味を向けたくない。限界へ挑戦している現在のハードな練習は長くは続けられない。2016年のリオデジャネイロパラリンピックを一区切りと考え、燃え尽きたい。今の日本代表チームならできる」と断言する。1年後、リオの表彰台でメダルを手にしているビジョンが、彼にははっきりと見えているようだ。

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