地元の良さを世界中に発信

 いすみ市岩船に4年前から住むパヴェルさん一家。家族は妻の栄子さんと2歳になる長男の玲央君。敷地内で放し飼いにしているラブラドールレトリバーのビワと猫のトラも一緒だ。パヴェルさんはチェコ人で、現在週2度、深夜番組のカメラマンとして東京に通勤しながら、自分で家の改修や増築をする生活を楽しんでいる。
 パヴェルさんは6年前まで、母国で実家が営む陶磁器の店で販売を担当。日本人も多く訪れることもあり、独学で日本語を勉強していた。日本語ができる映像のコーディネートもしていた縁で、テレビのディレクターとしてチェコに来ていた栄子さんと知り合い、来日。その後、結婚し東京に住んでいた。「チェコには海が無く、国民の憧れは海の近くに住むこと。栄子も担当する番組は自然の中での撮影が多く、田舎暮らしに憧れていたようです。東京に通勤でき、成田にも近い所に家が欲しくて、インターネットで探していたら、まだリフォームされていないこの家を見つけ、翌日には見に来てしまいました。暖かい日だったので家の近くを歩いていると、おばあちゃんが外にいたので、声をかけてみました。その人がとても親切だったこともあり、すぐにこの家を購入しました」とパヴェルさん。
 山の傾斜地に建てられた母屋が築30年ほどのこの家は、茶室があるような日本的な家屋だったが、荒れ放題。『となりのトトロ』に出てくるよう家だったという。母屋の土台部分は使い物にならなかったので、元々この家を建てた近所の工務店に大きな修理を任せたが、その他の直しはパヴェルさんが行った。一番のお気に入りは母屋の屋根付のテラスで、ここで食べる朝ごはんは特別においしく感じるそうだ。風通しがいいのでエアコンは使わずにすみ、寒くなっても母屋にある大きな、だるまストーブだけで暖をとる。薪も裏山の伐採した木で済むので暖房費もかからないし、ストーブの上で煮炊きができるのも魅力だ。また傾斜地の一番上に建てた家屋はアトリエで、近所の子ども達に絵を教えている。少し手狭になってきたので、新しいアトリエを建てる予定もあるという。
「私は絵描きになりたかったのですが、父親に反対されました。趣味でしたが絵は描き続けていて、東京に来たばかりの頃はあまり言葉も通じなかったので、家にこもり絵ばかり描いていました。現在は絵をボランティアで教えていますが、子ども達にとって外国人の私は宇宙人のような存在。そんな私と交流を持つことで、人生に少しでも変化があればと思っています。絵は交流の糸口で、それをきっかけに子ども達と敷地内でキャンプをしたり、お花見にも出かけました。子どもが出入りすることから、その親との交流も深まり、ある時チェコといえばマリオネットが有名だと言われ、それならとこの伝統的な人形も自分で作ってみました。人形劇に使うこの小さな劇場も自分で作りました。地域の催しがあれば、これをもって参加します」
 栄子さんも仕事柄、打ち合わせや撮影には上京するが、編集など、家でできることはなるべく家で済ませているという。東京に行っても早く家に帰りたいと思うようで、時間の使い方が上手になったと話す。「パヴェルは子どもの面倒をよく見てくれていて、私は出産後3カ月で仕事復帰したほどです。またこの辺は地域で子育てをするという環境もあって、どうしても私たちが不在のときは、息子を近所のご夫婦に見てもらっています」と栄子さん。
 田舎暮らしを成功させるには、近所との付き合いも重要だと聞くが、まさにこの一家は地域に無理なく溶け込んでいるよう。子どもに絵を教えていると、お礼にと野菜などが届き、時期になると地元の漁師に誘われ、イセエビの漁を手伝ったりもするという。また壊す家があれば手伝い、要らなくなった建具や廃材をもらってくる。人が訪ねてくるなら家にある材料でケーキを焼いてもてなす。お金をあまり使わず暮らしていけるのも田舎暮らしの魅力だと、パヴェルさんは流暢な日本語で話す。
「東京に住んでいたときは季節があまり感じられず、毎日同じような生活でした。ここに住んでいると、五感で季節が感じられ、穏やかに過ごせます。この土地にずっと住み続けたいです」とご夫妻。昔から住んでいる人は、この地域の良さに気が付いていないとパヴェルさんは残念がる。それできれいな海が近くにあり、気候は温暖、そして親切な人が住むこの土地をもっと広く紹介したいと、集落にある空き家を長期滞在ができるような施設にするよう住民に働きかけている。なかなか事は進んではいないが、ずっと住むであろうこの地域の有効利用を、外国の文化を知る住民として提案し続けるつもりだと語る。日本の良さをうまく生活に取り入れながら、楽しく暮らしているご一家。異文化を紹介する機会として、パヴェルさんが制作したマリオネットによる人形劇が、5月25日(日)、大多喜ハーブアイランド ベジタブルガーデンで開催される『房総☆スターマーケット』において上演を予定している。(大谷)

問合せ パヴェル・石井・ベドゥナーシュさん
pavel.ishii@gmail.com

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