書かない人生なんて、私には考えられない

児童書作家 たからしげる さん

 市原市姉崎在住の児童書作家、たからしげるさん(67)は今年5月『本当にあった?』シリーズ全3巻の編者を務め、PHP研究所より刊行した。同作は、児童書界の第一線で活躍する30人の作家たちがそれぞれの身近で起きた出来事を題材に書き下ろした作品を、10話ずつ1冊にまとめたものである。『不思議』、『奇妙』、『不可解』をテーマに短く、そして児童にも分かりやすく書かれているので、夏休みの読書にもオススメだ。
 たからさんが作家活動を始めたのは50歳の時。立教大学を卒業後、産経新聞社に入社。通信部、文化部、出版社への出向などを通して、長年作家へのインタビューや書籍の紹介記事を手掛けていた。「出版社で編集に携わっていると、常にいい書き手を探すんです。自分で発掘して売れたら嬉しいですしね。そんな仕事をしていると、ふと自分にも書けるかな、という欲がでたんです」と、たからさん。
 だが、それは決して突発的な思い付きではなかった。高校3年の時、『SFマガジン』の裏表紙でSF作家の星新一さんが選考する公募ショート・ショートに応募して掲載されたり、デビュー数年前にも日本児童文学者協会と出版社共催の公募に4年連続で入選したりの実力者だったのだ。「高校の時は別として、自分の実力はどのくらいなんだろうと試しに送ったものが選ばれたので、認められた気がして嬉しかったですね」と当時を振り返る。
 その後、出版社の編集者と「新聞社の通信部ってどんな仕事をするの?」という会話が発端となり、新聞記者が自身の息子と不思議な出来事を探るという物語『フカシギ系シリーズ①しゃべる犬』でデビュー。創作物語であるものの、かつて木更津市の通信部に配属中、市原・袖ケ浦・君津・木更津・富津各市を取材で回っていた時の実体験が元になっているとか。
 他にも、『さとるくんの怪物』や『想魔のいる街』、『伝記を読もう 伊能忠敬』など約25冊を執筆してきた。「読書や映画鑑賞が趣味なんですが、その中でも筒井康隆さんや星新一さんの世界、宇宙やゾンビの映画などが好きですね」と話す通り、作品もミステリー調が多くみられる。だが、『伝記を読もう 伊能忠敬』を執筆する際には、編集者から「全く新しい伊能忠敬を書いて」という要望があり、自ら方々へ取材に出向き手掛けたノンフィクションには、記者時代の技術が生きているのだろう。
 会社員時代は休日のみ創作活動を行っていたが、2014年の退職以降、毎日数時間パソコンを前にする。「はかどる時は、原稿用紙で20枚くらい。でも時々、書くんだという気持ちが先走って、形にならない時もあるんです。同じ周波数でいても上手くいかないので、散歩したり、コーヒーを入れたりして気分を変えると、アイディアが浮かぶ時もあります」と話す、たからさん。
 柔らかい物腰で、丁寧に話す口調は一見物静かだ。しかし、『嬉しい』、『悔しい』と決して気取ることなく口にでき、ひとつひとつの感情を思い出すごとに表情を変える姿は、少年のように輝いている。好奇心にあらがうことなく取材に取り組み、日常に転がる小さな不思議にアンテナを張る。「書いたものは不特定多数の誰かに読んでもらわないと成立しない。そのまま箱にしまっておいたら可哀想です」と強い想いを語った。不特定多数が読むからこそ、その評価に自信を失う時もある。だが、「何より嬉しいのは、本を読んでくれた子ども達が面白かったと手紙をくれることですね。今でも宝箱の中に大切にしまっています」という喜びもある。だからこそ、「これからも少しずつでも作品を出し続けていきたい」という活力になる。
 また、2012年には高校時代に組んでいた仲間とベンチャーズサウンドのバンド『アローファイブ』を再結成。都内スタジオで定期的に練習をしている。「音楽と文筆は違う世界に見えて、どこかで繋がっていると思うのです。文章もリズムとハーモニーが大切ですから」と独特な楽しみ方ももつ。
 昨年からは、ラジオニッポン放送で新山千春ナビゲーター『みんなの作文』にもレギュラー出演中(月曜夜9時から)で、活動の場を大きく広げている。
 作品はネット書店のアマゾンほか、各書店で販売中。詳細は問合せを。

問合せ たからさん
E-mail czv00707@nifty.com

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