「地域の方々にとって、なくてはならない存在になることが目標」~有限会社クロワッサン取締役 五井店店長 橋爪謙典さん~【市原市】

 皆さんのお宅ではパン食が多い?それとも米食?朝昼夕で食べ分けていたり、麺が加わることもあるだろう。米離れが叫ばれている昨今、パン食は増えているようだが、パンを製造・販売する会社の経営において、繁盛店であり続けることは容易ではない。
 それは、パンを販売する場が個人店だけでなく、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、デパートの食品売り場に出店するベーカリーショップなどと多岐にわたり、消費者の購買方法の選択肢が増えたからだ。
 このような状況下、堅実に「ファン」を維持し増やし、長年、地域の人たちから愛されているベーカリーショップがある。本社を木更津市に置く『クロワッサン』である。

 

 昭和55年、現・代表取締役の橋爪信義さん(63)が富津市で開業。その後、木更津店、君津店と支店をオープン、千葉店に暖簾分けしたり、更に五井店、みなのば店(木更津市羽鳥野)、木更津ワシントンホテル店オープンと上総エリアを舞台に快進撃中だ。
 その牽引役となっているのが、代表の次男である謙典さん(35)。木更津市で生まれ育ち、小中高と市内の学校に通い都内の大学卒業後、家業を継いだ。現在、千葉市で奥様と3歳になる息子さんと暮らしている。
 「大学3年の時、家族同然に思っていた従業員が帰宅途中で事故死し、悲しみで店をどうしようかとまで思い詰めた両親の憔悴した姿を見て、家族会議で自分が家業を継ぐと決心しました。当時、兄には別の道を進む夢があり、家業は継がないというので、自分がやらねばと考えたのです。昔から食べることが大好きで、食に関心が高かったこともありますが、あの時は両親の力になれればと、その一心で家業を継ぐことを決意しました」と語る謙典さん。
 両親ふたりで始めたベーカリーショップだったが、その経営手腕は業界からも一目置かれている。父親の信義さんはフランス料理店でシェフとして働く傍ら、将来フランス料理店を開業し、そこでパンも自分の作ったものを出したいと、朝はベーカリーショップで働いた。その後、パン業界に活路を見出し、ベーカリーショップを開業することに。
 当時は珍しかったオープンキッチンスタイルを取り入れたり、石釜の設置をしたりした。また、焼きたて・揚げたて・つくりたての「3たて」は、パンは焼きあがりが一番、購買意欲が増すとの考えから創業当時から守っている。更に、従業員教育で最も大事にしているのは接客。挨拶・笑顔・返事の3つをしっかりやること。
 更に、食べた人が感動するほど美味しいパン作りを。かつ、健康的なものをと、こだわったのが人の手で真心を込めて作ること。第一に、原材料の厳選。試作・試食を繰り返し、各々のパンに合う小麦粉やバターを選び、新鮮で栄養価の高い若鶏の生みたて卵や、ミネラルたっぷりの天然塩を使い、看板商品のクロワッサンは希少なブナの木の根から採った白神山地の天然酵母を使っている。このような、こだわりの原材料を使い、低温熟成法でアミノ酸を生成し体に良く味わい深いパンを作る。こうした時代を先取りした消費者の健康志向の高まりに対応した商品は、多くの人を魅了してきた。

 また、15年前からシニア向けにと『クロワッサンファンクラブ』と称するメール会員制度(現在はラインも含む)を始めたが、特典もあることから若い会員もおり、現在の会員数は約5千人。一方、販売方法を確立したのは、母親の真子さん(59)。ベーカリーで店員がお客様に「○○パンが焼きあがりました~!」と声がけするシーン、現在では普通にどこの店でも見かけるが、これを最初に始めたのが真子さんだったとか。

 そうした両親を見て育ち、共に働いてきた謙典さん。10年前、五井店の店長になった。「入社時から自分が近い将来、この会社を動かしていくんだという気概をもって仕事に取り組み、ここ10年間はがむしゃらに働いてきました。両親のもとで働く従業員に認めてもらわなければと必死でした。勉強し知識を吸収し、技術を習得して頑張りました」と、振り返る。

 従業員数120名(うちパート80名)を抱え、5店舗を運営する会社の次期代表取締役である謙典さん。集客と売り上げアップにつながる販売戦略について尋ねると、「メイン商品のクォリティをより高めることや新商品の開発が必要。自分たちで研究することはもちろん、お客様の声を商品に反映するように心がけている。商品の割合は惣菜系6・菓子系4ですが、食パンに力を入れています。人気商品第3位の『幸せ食パン』は、私が五井店の店長になった時、開店して2年ほど経っていましたが、売り上げがかんばしくなかったので、どうしたらいいかと考え、食パンなら毎日食べられているから、より美味しい食パンを作ろうと開発を重ね誕生したのです。定番人気商品となり売り上げアップにつながりましたが、今もバージョンアップしています。店内のレイアウトは大切に考えて、ワクワクしながらパン選びをしてもらえたらと、 賑やかな雰囲気を演出するようにしています。いわゆる、インスタ映えするディスプレイも意識しています。集客の一環としてはSNSを活用し、スタッフブログは8年前から、フェイスブックは6年前から始めました。店舗が増えるとチェーン店と思われますが、弊社は各店が毎日、粉を計り生地を練って熟成させてパン作りをしていますし具材も手づくり。その地域の事情を考慮して店づくりや商品の品揃えをしているので、チェーン店のイメージを払拭したい」と答えた。

多くの人と交流したい

 飲食店同様、ベーカリー業界でも従業員の確保は課題となっている。これについては、「毎年恒例のバーベキューパーティには全店の従業員が集まり、親睦を深めています。他、全店、年に数回集まる機会を設け、忘新年会や新入社員歓迎会等も行っています。父の代はワンマンに近いやり方で成り立っていて、職人の世界だった。厳しいのは当たり前、そういう心構えで皆、働いていました。でも、今はそういうやり方では若い人はついてこない。だから、従業員の皆さんが、楽しく、やり甲斐を感じて働いてもらえるような環境づくりをしていきたいと考えています。最近では女性のパン職人も増えました。女性特有のきめ細かさや手先の器用さといい、顧客の大半を女性が占めることからも、同性である女性の感性が求められています。だから、これまでの男性仕様のハード面を変えていかないといけない」と話し、その上で「ベーカリー業界では、ベトナムから人材派遣で日本に働きに来る人たちが多い。ベトナム人は真面目で勤勉な上、穏やかな気性だといわれているので、人材確保のため私はベトナムで職人を育成し日本で働くようなシステムを備えた会社を興そうと考えています」とも。
 個人的な目標としては、「現在、技術講師としての活動も増えているので、今後は日本のシェフの需要がある東南アジアでの活動も視野に入れたい」とのこと。瞳を輝かせながら、将来の展望も語る謙典さん。最近、週に2日は午後を社外活動の時間にあてているという。「経営者として成長したい。視野を広くするため、できるだけ多くの人と交流したい」と考えて、同業だけでなく異なる業種の若い経営者の勉強会にも積極的に参加している。休日は月に2日ほどだが、「ベーカリーショップに限らず、繁盛店に行き、可能であればオーナーに話を聞き、交流できると嬉しい」と微笑む。
 まだ両親は元気で働いているが、「自分としては転換期を迎えたと考えています。しっかりした形で世代交代をして事業継承をと考えています。数年前から兄や弟も我が社で働くようになり、三兄弟でやっていくからには、拡大路線で事業を展開していきたいですね。これまでの内房エリアから出て店舗運営できる力をつけたい」と話した。

 

問合せ クロワッサンファクトリー五井店
TEL 0436・22・2010

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