昆虫と農業の共存に貢献

千葉県立農業大学校准教授 清水敏夫さん

 「大切なのは目の前にあることを1つずつクリアしていくこと。まだまだやりたいことはたくさんあるんです」と、少年のように目を輝かせるのは千葉県立農業大学校の清水敏夫さん(47)。同校に赴任して3年目。飛ばないテントウムシ『テントロール』の開発やバッタの一種であるクビキリギスと呼ばれるピンクのバッタの繁殖成功、頭だけ幼虫の形態を残したクワガタの羽化など、研究での快進撃が止まらない。
 清水さんは山武市の農家の長男として生まれ、ゆくゆくは家業を継ぐという志があった。テレビゲームなどほぼ皆無の幼少時代、遊びは専ら昆虫採集だった。「近所には綺麗な湧き水があって、みんなが自由に飲んだりしていました。それが小学生になると農業の転換期が始まります。ヘリコプターで農薬の散布をしたり、水田の乾田化が進んだり。白鷺やニホンアカガエルなど身近で見ていた生き物が一気に減ったのは目に見えて明らかだった」とか。清水さんも今後の農業を見据えた時に、必要なのは天候に左右されない施設内で栽培する野菜だと判断。農業の最先端の知識と技術を学ぶことができる南九州大学に進学した。
 運命が大きく動いたのはまさに大学生の時だった。「下宿先で偶然隣の部屋になった2つ上の先輩の影響です。壁一面に見たことのない虫の標本が並んでいて圧倒されました。沖縄に自分で収集に行ったらしいんですけど、その中に形状が普通と異なるクワガタがいて尋ねると、まだ分類されていないという話。昆虫の研究はそれだけ未開の領域が広いことにも衝撃を受けたんです」という清水さんの脳裏には、幼い頃に見た光景が蘇った。思う存分に駆け抜けた野山。探せば手の届く場所にいてくれる生き物たち。清水さんが昆虫界にのめりこむのに時間はかからなかった。
 「スポンサーを得て、鹿児島港から船で5~7時間ほど行った場所にある黒島やトカラ列島の中之島に調査に行くようになりました。当時はまだ島の環境について十分に調べられておらず、島民の皆さんの協力を得て、昆虫の生息調査を行った」とか。人口200人にも満たない島で、清水さんは島民の関心を引きつけようと『クワガタムシ』の研究に没頭した。
 そしてそれは大学を卒業し、千葉に戻り高校教員として勤務し始めてからも続いた。結果、新亜種のクワガタ4種類を発見。論文を発表して終わりという研究では嫌なので、全島民にどれだけ島の昆虫が貴重か冊子を印刷して配った。鹿児島県立博物館にも昆虫標本を寄贈し、今でも常設展示されているという。その後、島の昆虫保護の為に島民と許可された研究者以外が採集することを禁止する条例の制定に携わり、一連の活動が一息つく頃には、島を初めて訪れてから10年の月日が過ぎていた。

教員としての情熱喫

 「やるならとことん!」がモットーの清水さん。「有難いことに妻も両親も私の研究を応援してくれている」そうだが、二度目の転機はすぐにやってきた。「千葉県立印旛高校から成田西陵高校に異動になったんです。異動してすぐ担任を持ち、何か目標を持ってもらおうとクラスの生徒達に宣言したんです。お前達は今日から全員生物部だ、と」。驚きの発想だが、意外にも生徒たちは柔軟に行動した。だが、それも「いっぱい叱ったけど、その分たくさん愛情を注いだ」という熱意が伝わったからだろう。
 学校内で使用されていなかった牛乳加工室をクラスの生徒達とともにリフォームし、1年後には日本初となる生徒運営の『昆虫館』をスタート。月一度の一般公開日には地元住民が訪れ、生徒が子ども達に優しく説明することで、学校の評判も良くなっていった。そして、同校の生徒らの着眼点を皮切りに取り組んだ『飛翔制御したテントウムシ』で害虫駆除に成功、2014年に特許を取得した。現在の千葉県立農業大学校に赴任後には、『テントロール』として販売を開始。人畜無害の特定防除資材として注目を集めている。その後も、冒頭の通り農業界へ話題を提供し続けている清水さんだが、今後もいかに昆虫を農業に、そして学生達の授業に取り入れていくかを大切にしていくという。
 「繁殖に成功したピンクのバッタを農業に取り入れること。テントロールをより長く有効的に利用する方法を研究すること。害虫駆除に役立つ緑肥植物の解明など」と目標は次々に溢れだす。また、「生き物を見ながら、なぜそんな行動をとるのか一日考えていられますね。知らないものを見ることが好きなんです。きっと私はずっと昆虫を求めて生きていくんだろうな」と、清水さんは最後まで笑顔で語った。

問合せ 千葉県立農業大学校
TEL 0475・52・5121

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