認知症について、私たちは何を知っておくべきなのだろうか【市原市】

 2月9日(日)、市原市勤労会館(youホール)で開催された講演会『認知症になってもこわくない』。いちはら市民ネットワーク主催で行われた同講座の講師は安田清さん。言語聴覚士、学術博士で工業大学や医科大学にも籍があるなど現在様々な顔を持つ安田さんは、千葉労災病院で長く認知症のリハビリテーションに取り組んでいた。「夫婦二人いれば、今の時代はどちらかが認知症、どちらかが癌になることは珍しくありません。認知症にならない!ではなく、そうなってしまっても大丈夫なように備えることが大切です」と、講演会の冒頭で語った。

認知症の現状

 認知症と呼ばれるものには、症状は大きく4つの型で分類されている。その中には脳血管疾患や甲状腺機能低下が原因とされる認知症もあり、それらは成人病予防や手術をすることによってある程度の罹患減少が可能とされる。「一番厄介なのがアルツハイマー型などの変性型です。変性型認知症の進行を遅くする薬は4種類ありますが、効果は人によって異なりますし、まだ治癒薬はありません。魚や酒、サプリで認知症予防をうたう情報も多いですが、こちらの効果も確立していません」と説明する。厚生労働省は、高齢者の増加傾向が著しい今後の社会を懸念して、認知症本人と支える側のケアに焦点を当てた地域づくりを目指す『新オレンジプラン』を取りまとめ、公表している。だが、安田さんは「核家族化が進んでいることもあり、本人や介護する側の孤立を防止することが大切。そのための、記憶支援具の貸し出し制度や、周囲と簡単に繋がるための通信費の助成など、まだ取り組みとしてまったく行われていない施策があると思っています」と、訴える。
 それでは、認知症であるかはどう判断されるのだろうか。普段の生活の中でよく起こりうるのは物忘れだが、認知症かと不安になるかもしれない。認知症の症状は、約束や昨日食べた物を忘れてしまうなどのエピソード記憶が鈍くなることを指す。病院のMRI検査では初期の異常の発見が遅れることも多く、詳細な記憶の検査が必要だとか。「思い出せない、覚えられない、活用できない。つまり認知症は情報障害ともいえるのです。それなら、外部メモリとしての情報技術を活用すれば、薬の開発を待つより早いのではないでしょうか。足が悪い人は車椅子、耳が悪ければ補聴器、目が悪ければ眼鏡を使いますよね」と、思わず頷いてしまう考え方だ。

どんな備えがあるの?

 では、認知症になってしまった場合に活用できる道具をご紹介。まずはメモリーベスト。ベストの裏に6個のポケットがあり、忘れてしまった時のためにメモを入れられるようになっている。背中上部には住所を書いた名札があり、道に迷った時に周囲の人間も助けやすく、肩のパッドにはGPSを入れることも可能。次は物忘れセンサー。家の中の日用品も置いた場所が分からないと大変だ。主要な物にセンサーを付けておくと、見つけられない時に専用のボタンを押すと音が鳴って場所を教えてくれる。そして、薬ケースグッズは朝、昼、晩の3回、時間になると音で薬を飲むことをお知らせするのだ。患者や介護者と身近な視点から関わり続け、あらゆる道具を開発してきた安田さんが他に提唱するのは、コミュニケーションの大切さだ。
 スマートフォンやネットの普及により、『LINE』や『スカイプ』など無料通信ソフトも進化を続けている。10人同時にテレビ電話できる機能を利用すれば、介護者同士の情報や問題共有にも有効に活用できる。また、ボランティアとのテレビ電話会話網も作ったので、パソコン画面での写真をお互いに見ながら会話をすることもできるとか。さらに人間だけでなく、バーチャルエージェントと呼ばれる機械上での人物との会話も有効だと安田さんは説く。「身近な人間だと、どうしても何度も同じことを言われると疲れてしまう。ほぼ完成しているのは、会話ができる子どものエージェント。患者さんの話が終わって数秒経つと自動的に質問を投げてくれるんです。40分会話を続けた方は、最後に楽しかったと泣いておられました」と、安田さん。
 認知症患者だけでなく、介護する側の気持ちも忘れてはならない。安田さんは、「特に男性の方は一人で解決しようとしがち。毎月第2土曜日には市原市若宮で『もの忘れ・認知症 寄りあいサロン』を、奇数月の第4土曜日には市原市辰巳台で『介護者居酒屋』を開催しています。お互い気軽に話してみませんか」と、呼びかけた。会場からは、「85歳の母と最近喧嘩が増えました。気性の変化も認知症なのでしょうか」、「軽度認知症の姉が重要な書類にサインしてしまいました。取り消せますか」など、多くの質問が飛んでいた。

問合せ: いちはら市民ネットワーク
TEL.0436・21・1907
安田さん
TEL.0436・74・3384
mail:yasukiyo.12@outlook.jp
https://gensoshi.jimdofree.com/
著書「MCI・認知症のリハビリテーション(エスコアール社)」

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】各賞受賞作品の監督。前列左から2番目は映画祭実行委員長、後列左端は審査員のミヤザキさん。グランプリ受賞の全監督は前列左から3番目。 …
  2.  若い人がイチバン集まりたくなる街イチハラヘ! 未来に向けて動き出す「イチハラ」が、新しい「しあわせ」を発信する2024年の3日間、その各講…
  3.  キセキレイは、よく街中で見かけるハクセキレイの仲間ですが、個体数が少なくなっていることや、渓流や川原などの水辺を好んで生息しているため、ハ…
  4. 【写真】神明さん(左)と宗形さん  丸みのある可愛いフォルムから奏でられる心地よい音。それこそ、オカリナの最大の特徴である…
  5.  今年の夏休みのこと。学童保育のイベントで夏祭りを企画し、子どもたちは、紙で作ったお金で出店屋さんで買い物をしました。一人5百円をどう使うか…
  6.  9月の終わり頃にチャドクガの幼虫(毛虫)の毛に触れてしまったようです。チャドクガは蛾の一種で毛先に強力な毒を含んでおり、お茶の木、サザンカ…
  7.  私の生まれ育った芦別は北海道のほぼ中央に位置し、四季折々の美しい自然と星空に恵まれた町です。  昭和59年に「星の降る里」を宣言し、昭和…
  8.  きつね色にこんがり揚がった生地と香り高いカレーの取り合わせが人気のカレーパン。市原市五井西の『クロワッサンファクトリー五井店』の『じっくり…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】各賞受賞作品の監督。前列左から2番目は映画祭実行委員長、後列左端は審査員のミヤザキさん。グランプリ受賞の全監督は前列左から3番目。 …

スタッフブログ

ページ上部へ戻る