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百年前の出張料理人『バンコさん』のつくる料理~ 睦沢町立歴史民俗資料館~【睦沢町】
- 2023/6/15
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【写真】材料一覧:左から3列目に『はいな3個』とある
4月29日、睦沢町立歴史民俗資料館教育普及事業、第26回民俗学講座『バンコの習俗』が開催された。『バンコ』とは、冠婚葬祭が自宅で行われていた時代に、宴席でもてなす料理の采配を振るった出張料理人のことだ(地域により呼び名は異なる)。講師は、同館学芸員の山口文さん。「バンコは祝言・葬儀・子どもの節句などの人生儀礼に際して工夫を凝らし料理を作りました。睦沢町佐貫地区を中心に活躍したバンコ『髙橋伊三郎』が記した『バンコ帳』をもとに、当時の食について考えたいと思います」
髙橋伊三郎は明治15年(1882年)に生まれ、昭和6年(1931年)に49才で亡くなった。大正2年に睦沢町長楽寺地区に水茶屋を開き、仕出しも行った。「人当たりがよく、店も流行ったのではないか」という親族の話も伝わっている。
「バンコ帳を読み解くために、わからない単語を調べるところから始めました」と、山口さん。「『はいな』はパイナップル、『をれんじ』はみかんではなくネーブルオレンジだということがわかりました。季節に関わらず利用できる缶詰のタケノコなどもあり、新しく高級な食材が取り入れられています。参列者にもさぞ目新しかっただろうと思います」。バンコ帳の献立や食材の一覧、伊三郎の肖像や伊三郎が使っていた出刃包丁の写真など、様々な資料を交えて講義がすすめられる。「伊三郎の料理で特徴的なものは鯉の活け造りです。鯉の身に醤油をかけるとバチバチと生きているようにはじけて、食べる人の目を楽しませました。大根やリンゴの飾り切りもあり、伊三郎は食材の特長を熟知していたと感じます」
他にも、祝言の献立の始めに『座着 汁粉』とあるのは、『おっつきもち』といい、「緊張している花嫁に甘いものを食べて落ち着いてほしい」という気持ちと、「嫁いだ家にしっかりと落ち着いてほしい」という願いが込められたものだということ。『祝酒』では、一同の結びつきを強くするため、日本酒を回し飲みしたということなど。先人たちが人生の節目に食に込めた思いが感じられるような話に、参加者はうなずきながら耳を傾けた。
聴講した80代男性は、「子どもの頃、親戚の祝言で長柄町のバンコさんの料理を食べたことがあります。どれもこれもおいしかった」と、なつかしそうに目を細めた。山口さんは、「バンコが作る料理は、普段食べることが出来ない特別なものでした。そこには祖先たちが喜びや悲しみの日に味わった感情の記録が刻まれています」と講座を締めくくった。
問合せ:睦沢町立歴史民俗資料館
Tel.0475・44・0290