生命の輝きを絵に吹き込む

生命の輝きを絵に吹き込む
画家 宮崎 幸子さん

 絵が生きている。モデルの息づかいまで聞こえてきそうだ。何を考えているのだろう?2つの表情を持つ女子高生。まるで王者のような威厳を感じさせる古老の男性は夫の父親とその弟を描いたもの。白とピンクのコスモスは宙を泳ぐように好きな方向に顔を向けている。
「一番表現したいことはそれぞれが持つ個性と生きる力、生命感です」と話すのは市内牛久在住の画家、宮﨑幸子さん(59)だ。東京教育大学教育学部芸術学科絵画専攻を卒業後、昨年3月まで千葉県の県立高校4校で美術の教師を務めた。20年ほど前から本格的に油彩画に取り組むようになり、新構造展に毎年出展している。当初、報道写真を見て描きたい衝動に駆られたのは難民の子ども。「異国情緒漂う顔立ち、悲しみと苦しみの中にあって一条の光のような表情、布を巻きつけたような衣装にも惹かれました」
 2001年には作品『少女の頃に』が第73回同展で内閣総理大臣賞を受賞。「モデルは当時の教え子であった美術部部長の女の子です。どこか大人びた子で、凛とした真っ直ぐな眼差しが印象的でした。思い出の意味合いから背景は校内にあったツツジをセピア色で描き、手前にはこれからの輝きを暗示するように赤いスジの入った白い花を添えました」高校教師をしていたこともあり、女子生徒をモデルにした作品が数多くある。
「作品『コンニチハ・サヨウナラ』は女の子が2人描かれていますが、実は同一人物です。話を聞いてくれているなと思いきや次の瞬間には違う方に興味がとんでいる。現代っ子らしく、切り替えが上手な新しいたくましさに感動しました。教員時代最後の作品で、思い出の集大成です」髪を金髪に染め、ルーズソックスをはいた女生徒が2人並んで微笑んでいる絵なども。「今時の高校生は…なんて言う人も多いけれど、ピュアで元気で若さゆえのエネルギーにあふれていた。とてもパワフルな子たちだったので、周りにはひまわりと明るい緑をもってきました」と宮﨑さんは懐かしむように解説をする。
女性の肌や輪郭にはふわっとしたやさしさと繊細なタッチが感じられるが、「人物はざっくりと描きます。勢いで描いた方が生き生きとした様が出るんですよ。描いていて楽しいです」。人物画に花を組み合わせるようになったのは2007年頃から。「普段からよく知っている人を描いてきました。人にはそれぞれキャラクターやムードがあります。表情、イメージに合わせて花を添えています」母と亡き父を描いた作品には色とりどりの紫陽花が描き込まれている。
 1年前に松戸市から牛久に移り住み、畑で元気に働く夫の両親と同居している。夫は山形大学の教授で単身赴任中とのこと。「畑から採ってきたばかりの花は美しい有機的な動きと生命感にあふれています。花瓶の中でも生きるためにバランスをとり、美しいリズムを刻んでいるようです。私自身も花を育てているので、これからも試行錯誤しながら自分ならではの花の表現を見つけていきたいと思います」牛久は夫の故郷なのだが、古い旅館などの木造建物、町並み、そこに生きる人々に魅力を感じ、自分の故郷のようになりつつあるという。「趣きのある、歴史を感じさせる建物が新しいものに取って代わられていく前に描かなきゃと思っています。ご近所のおじいちゃんやおばあちゃんも描いてみたいです」
 9月末に小湊線上総牛久駅前の『ぎゃらりぃ駅舎』で『?生命の輝き?』と題した初の個展を終えたばかり。同個展の案内ハガキに使用したのは作品『彩り』。娘の大学院卒業式の様子を描いた華やかな作品だ。洋画に向く油彩画でどれだけ和風の感じを出せるか試してみたかったという。
 明るい題材が多い宮﨑さんの絵だが、憂いのある女性など少し趣きを変えたものにも挑戦したいと話す。宮﨑さんが描いてきた愛すべき人物の中には、もちろん母としての目から見た娘と息子の絵画や満開の桜をバックにした夫婦の絵もある。建築士の息子が設計したホールでフルート奏者の娘とコラボレートし、画廊コンサートを開くのが夢だという。
「一番好きな作品は?」と尋ねると「全部です。みんな愛情を込めて描いたものばかり。子どもみたいなものです」と明るく笑った。愛情のこもった宮﨑さんの絵は、生きて、見る人の心に語りかけ、希望とエネルギーを与えてくれる。

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