「絵を描くのは楽しいから。自分の焼いたお菓子を美味しいと言ってもらえると幸せ」

「絵を描くのは楽しいから。自分の焼いたお菓子を美味しいと言ってもらえると幸せ」
佐野 昌子さん(市原市在住)

 10月中旬、市原市にある障がい者の福祉作業所『シーモック』に通う市内青葉台在住の佐野昌子さん(28)が画家、藤本幸一さんとの二人展を開いた。会場の『ココ・しいの木』(旧シーモック)には、藤本さんのレトロで優しさあふれる絵画作品と、佐野さんの明るくて天真爛漫な絵画と刺し子作品が展示された。
 ちょっぴり恥ずかしげに挨拶する佐野さん。携帯電話で撮影した展示されていない自分の作品を見せてくれる。多少、会話のリズムがスローではあるけれど、皆から「マーちゃん」と親しみを込めて呼ばれている人懐こく可愛い女性だ。彼女はダウン症(ダウン症候群)という生まれつきの疾患をもっている。染色体異常による疾患で、根本的な治療法がないため、症状に応じた治療が行われている。佐野さんも幼い頃からダウン症特有の症状に苦しめられた。
 母親の安惠さんは、「娘は3歳頃まで自転車を乗り回す活発な子でした。本当は首の骨の発達が遅いため運動をさせてはいけなかったんですが、あの頃の私はそのことを知らなかった。それで頸椎を痛めたのですが、当時、手術は難しくコルセットをつけ、高校に進学後、手術を受けたのですが手足に麻痺が残りました」と話す。また、手術を受けるまでの10数年、「頸椎を痛めてから骨が固定されてないから、神経がやられ体が動かない、呼吸ができず死に直結する。医者から、気を抜くな、抜いたら死ぬぞと言われ続け、毎日心配で寝るときも隣に寝かせていました。ダウン症の合併症である甲状腺機能亢進症もあり、いろいろ治療はしたのですが、薬の副作用が強くでてしまい2年前に甲状腺を取る手術をしました。そして今は薬をのみ忘れると命に関わると言われ、のみ忘れないよう注意しています」
 でも、つらいことばかりではなかった。幼稚園では、お絵かき教室の助手が昌子さんの良いところを引き出してくれ、小学校では校内コンクールで金賞を受賞した。小学校までは普通校で、低学年の頃に失禁してしまった昌子さんに、同級生の女子たちは彼女を囲んで周りから見えないようにして着替えをしてあげたり、掃除時間に昌子さんがどこかへ行ってしまった時は、半数の子どもたちが掃除をし、半数の子どもたちが手分けして探しに行ったことも。そして仲間はずれにせず一緒に遊んだ。「本当に、幼稚園、小学校と子どもたちは昌子に良くしてくれました。『マーちゃんが頑張るから皆頑張るんだよ』とか予防接種の時は『マーちゃんが泣かないから私たちも泣かない』と言ってくれて」と嬉しそうに振り返る安惠さん。
 中学では特別支援学級(当時は特殊学級)へ、高校は支援学校に進んだ昌子さん。弱視なので縫い物はできないと思っていたら、高校入学後にできることがわかり、「何かできることはないか。何か与えてあげたい」と考えた安惠さんに勧められ刺し子を始めた。そして卒業後はシーモックへ。病気との闘いでしばらく遠ざかっていた絵を描き始めた。作業所で絵の指導をしている藤本さんは「色づかいがきれい。瞬時に思いついた色づかいで、常識にとらわれない絵を描く」と彼女の絵を評価。障がいがありながらもアート制作に取り組む千葉県内の人たちが作品を発表する『アートフレンズ展』への出品を勧めた。
 昌子さんに絵を描き発表する喜びを教えた藤本さんは、「最初はマジックで描いていたが、最近は絵の具でも描いている。遠近感や陰影をつけてごらん、とアドバイスすると忘れずやってみる。他にはデッサンで決まると言うぐらいで、あまりあれこれ言わず好きに描いてもらってる。そうでないと僕の絵になってしまうからね(笑)」と言い、今回の展示も当初は彼女の作品展の予定だったのを請われて、応援の意味も込めて二人展とした。
 ダウン症の人は自宅にこもりがちだったり、家族があまり表に出したがらないとよく聞くが、佐野ファミリーは積極的に昌子さんを外に連れ出す。会社を経営する父親は忘年会に昌子さんを誘い、7歳違いの姉はテーマパークやイベント、ボウリング、映画等に昌子さんを連れて出かける。年に数回、家族旅行にも行く。昌子さん自身、「最近出かけて楽しかったのは、お姉ちゃんがディズニーシーへ連れていってくれたこと。お姉ちゃん、大好き!」と嬉しそう。自宅では洗濯物の取り込みや掃除機がけ、チャーハン作りなど家事も手伝う。
「絵を描くのは、楽しいから。刺し子は面白い。今はウサギと月の作品を作ってます。作業所でのお仕事はお菓子作り。自分の焼いたお菓子を美味しいと言ってもらえると幸せな気分になる」満面の笑みで作品の前に立つ昌子さん。刺し子や絵を描く時間以外のプライベートなひとときは、パズルやゲームで遊んだり、アニメのビデオを観るのが好きという、ごくごく普通の20代だ。言葉の端々から今、生きている喜びを感じさせる。藤本さんとの二人展を終え、「工作やってみたい。機織りに挑戦してみたい」と瞳を輝かせる昌子さんが今後どのように活動の世界を広げていくのか楽しみである。彼女のひたむきに取り組む姿が同じ病に苦しむ人たちの励みになればいいと思えた。
 

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