文と絵 山口 高弘

 雨の日のある夕方、僕は親友の新居にいました。彼は結婚して一軒家を建て、この夏の終わりに結婚披露宴を控えています。白い邸宅の洒落たリビングで、新郎の彼と僕は、披露宴の話で盛り上がっていました。彼の花嫁は食事会に出かけていて留守でした。新郎が僕に、頼み事をしました。
「披露宴で花嫁がお色直しで退席する時に、寸劇をやりたいんだけど協力してもらえる?」大丈夫だよ、と僕は答えました。彼は続けます。「花嫁が普通に退席するのはありきたりだから、花嫁が『悪魔』に連れて行かれて、新郎の俺が救出しに行く寸劇をしたいんだ。花嫁を追いかけて俺が退席したら、救出の様子が会場のスクリーンに写真で放映されるの。無事に救出した写真が放映されたら、会場の扉が開いて、お色直しを終えた新郎新婦が再登場するってわけ」
 さすが!と僕は笑いました。人を楽しませるのが好きな彼ならではの案です。僕と花嫁も旧知の仲だから、全員の連携も問題ないはず。僕が『悪魔』を演じることに決まって、ディズニー映画に登場する、ある魔女の衣装を着ることになりました。早速ネットで衣装を注文し、『救出劇』の大げさな写真を室内で撮り始めます。いつしか時計は夜12時を回り、「ピンポーン」花嫁が帰宅しました。
 おかえり、と言うなり新郎が報告しました。「例の余興の話、まとまったよ」すると花嫁の血相がみるみる変わりました。「あの案には反対したじゃない!披露宴に『悪魔』なんて不吉だわよ!…あ、お久しぶりです、こんばんは」花嫁の強烈な挨拶に、僕は会釈をするのがやっとでした。「だって、俺らしいじゃないか…」新郎が反論すると、花嫁は、シンデレラのような笑顔で、しかし雪のように冷たく、愛する新郎を諭しました。「ありのままの自分なんて、披露しなくてもいいのよ」

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
 小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上 で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストを連載。

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