房総往来 灼熱の江戸川渡り

山里 吾郎

 午前9時半。水銀柱はすでに35度どころか、40度さえも突破しているのでは…。そんな錯覚に陥るほどの猛暑の中、女性3人を含む12人の"強者"は「矢切の渡し」へ向けて懸命に歩を進めた―▼今年一番の暑さとなった8月1日、町会ハイキング部主催の「葛飾・柴又行」で遭遇した試練の一場面。江戸川を渡り対岸の寅さんに会うまでの約1時間半、長く辛い「真夏の修行」を体験した▼午前7時、五井駅行のバス停に集合。この時点で"猛暑の道中"はすでに予感された。市川駅までは快速電車。路線バスに乗り換え、戦国時代の古戦場跡・里見公園へ。ここからがいよいよハイキングの本番だった▼樹木豊かな公園から脇道に入るといつの間にか木陰は消え、灼熱の太陽が真上から照りつける。住宅街から田園地帯を抜け、暫く進むと水門が見えてきた。「江戸川沿いに出ればいくらか風が…」。にわかに活気づいたのも束の間、淡い期待は無残に裏切られた。眼下に川の流れは見えるが、道路脇に伸びたススキの若葉を揺らすはずの風はほとんど感じられない。無風の炎天下、逃げ場のない徒歩行進▼とはいえ平均年齢65歳以上(?)。足元こそおぼつかないが口だけは滑らか。「修行と思えば大丈夫」「川さえ渡れば鰻と冷たいビールが」。勝手気儘を口にしながらそれぞれが己を励ます▼「舟着き場はまだか…」。何人かの口からつぶやきが漏れたころ、土手下に「矢切の渡し」の旗が。全員の足が急に活気づいたのは言うまでもなかった▼上流で降った大雨のせいだろう。江戸川は茶色く濁っていたが渡し舟に乗った一行の表情は苦痛から笑顔に変わっていた。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】講演する家田さん      昨年12月、市原市市民会館で開催された『令和6年度市原市人権・男女共同参画フォーラム』。男…
  2. 【写真】はにわ博物館展示室の姫塚埴輪        昨年8月、千葉県殿塚古墳・姫塚古墳出土埴輪(総数48点うち殿塚古墳30点、…
  3. 【写真】第1回ドリームコンサートにて。2部では会場とステージが一体に &…
  4.  明けましておめでとうございます。2005年5月に「こでまりの夢」のコラムが始まって今年で20年になります。今回は第1回で掲載しました『か…
  5.  正月飾りの縁起物に赤い実のカラタチバナがある。これを探して冬の里山を散策した。数は少ないが一株見つかると近くに数株見つかった。11月頃か…
  6. 【写真】西本さん。大谷家具ギャラリー工芸館にて、展示作品と      大分県別府市在住の竹細工職人・西本有(たもつ)さんは、市…
  7.  富山県富山市。標高3000メートル級の北アルプス立山連峰や水深1000メートルの富山湾に囲まれ、人口約40万人の北陸地方を代表する主要都…
  8.  エイサーは沖縄全島と鹿児島県奄美大島に伝わる伝統芸能の一つ。旧盆の時期に祖先の霊を迎え、送り出すための演舞で太鼓や獅子なども使いながら踊…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】講演する家田さん      昨年12月、市原市市民会館で開催された『令和6年度市原市人権・男女共同参画フォーラム』。男…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る