あなたはもう体験した?里見に出現した不思議な空間 アートいちはら2016春

『水をイメージしたビニール彫刻』(写真上)

 2017年の第2回いちはらアート×ミックスに向け、5月3日から8日に南市原でアートの祭典が開かれ、IAAES(旧里見小学校)では学校や周辺の自然からインスピレーションを得た作品が展示された。
 受付を入るなりいきなり目に飛び込むのは水内貴英さんによる『木をイメージしたビニール彫刻』。森の中のような空間に来場した子どもたちは走り回り、フワフワした木を触り、喜んでいた。
 角文平さんが2014年から製作する、市原市の全景を彫刻刀で机の天板やベニヤに刻む『養老山水図』は沿岸部がようやく形を見せたばかり。緻密に制作が進む作品の完成が楽しみだが、今回はその上に新作『市原市民大移動図』がある。市原を象徴するゴルフ場のイメージで、山水図の周りから市の南部に向け、人々が往来するようにピンポン玉が飛んだり、戻ったり。園児の一団が教室に入るなり「わあ」と目を輝かせていた。
 初登場の渡辺泰子さんの作品『まだ見ぬあなたへ』はルイス・キャロルの小説『スナーク狩り』がテーマ。教室に入ると、羊毛から作ったフエルトが布団のように敷かれており、来場者たちは一瞬戸惑いをみせる。海図だというが、縁に東西南北の方向が示されだけで真っ白。鑑賞者自身に行き先を問いかける。
 ロシアの現代美術家レオニート・チシコフが創り出した静謐な空間は『3つの月』。階段の頭上に輝く月は、木の切り口に満月を見た芭蕉の句に触発された作品。使った木は近くの森から掘り出したものだ。
 地元住民たちの作品は、多彩なプロジェクトを展開する中崎透さんの監修。「里見にはこんな古木がいっぱいあった」と話す南市原里山連合有志による教室は個々の盆栽を集め、こんもりした森を形作る。窓の外の美しい里山風景もアートの一部だ。
 チェーンソーカービング世界チャンピオン栗田宏武さんの教室では森の生き物たちの力強い彫刻作品が集合体となり迫ってくる。他に小湊鐵道、地域の花嫁やお年寄りの笑顔を撮った写真ルームも好評だった。
 これらアート作品を熱く語るのはボランティアの菜の花プレーヤーズ。元副市長の三橋さんは「楽しいから」と東京から駆け付け、アート×ミックスが始まった年に出産した高木さんは「アートと一緒に子どもを育てたい」とはりきっていた。
 そして、かつて子どもの声が響いた学校に思いを寄せる人たちもいる。壁に残る、授業で作った地図を指して「ここが家」と教えてくれたのは同校に通った小学校6年生。今年3月に閉校した平三小学校の卒業生だという40代の女性は「懐かしい」と養老山水図の下の机を覗いていた。元教員もいる地元ボランティアは校庭の整備や食堂の運営で支える。
 日常を少し違った視点で見せてくれる、現代アートの森に迷い込めばもう虜。見て、作って、遊べる今後のイベントが待ちきれない。

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