信仰の痕跡を求めて 真ケ谷の八日講を訪ねる

 「荒れた里山や森の整備をすると藪に埋もれた石造物を見つけることがある。見捨てられた石仏や古道に出合い、地域の歴史や言い伝えを記録しておきたいと思うようになった」と話すのは内田・米沢の森の整備をする『市原米沢の森を考える会』の代表、鶴岡清次さん(71)。
 6月8日、市原市内田地区に残る歴史の聞き取り調査を行う鶴岡さんと同会の事務局杉田さん夫妻が真ケ谷の八日講を訪ねるというので同行した。江戸時代から出羽三山信仰の盛んだった房総地域では、山形県の出羽三山参りを済ませた行人が地域の安全や豊作を祈願する講が今も残る。
 毎月8日に八日講を行う真ケ谷青年館に集まったのは内海茂さん(80)、大岩藤雄さん(76)、竹内熊吉さん(93)、竹内利光さん(77)、宮代暉久さん(83)。食卓を囲みながら話を伺った。 出席者らによると「戦後は夫婦で参加した」という真ケ谷の八日講。信仰の決まり事はゆるやかに受け継がれている。現在は祭祀というより、地元住民交流の役割を担う。新年の1月8日には30人ほどが集まり、近くにある出羽三山碑が建つ『お山』に参拝する。かつては幣束を長い棒につけた梵天をお山の周りに立てたが、「今は作れる人がいないのでお神酒をあげるだけになった」と誰もが淋しそうに語る。「でも、八日講があるから真ケ谷はみんな仲がいい」。月ごとの講に出席するのは男性数人。集会所を清掃して祭壇の前で経典を唱える。
 集会所に掛かるのは黄ばんだ白黒写真。大正生まれの竹内(熊)さんは「昭和7年の梵天供養だよ」と白い行衣の男性たちの後ろに映る子どもを自分だと指さす。梵天供養は登拝した証の木製の剣梵天を『お山』に奉納する祭祀。剣梵天がたまると各地区で盛大に行われ、多くの人で賑わった。周りの地区は山車の万燈を出し、お祝いを贈った。
 「真ケ谷のときは大岩家が当番だった。その時は川在地区から万燈が来た」と竹内(熊)さんが思い出す。「昭和30年、川在のときはうちが会計になり、万燈に飾る人形を買いに行ったと聞いている」と大岩さん。竹内(熊)さんは「万燈は三段か四段あったなあ。お囃子の屋台は刑部から借りた。各家で少しずつ米を出し、女たちが早朝からおにぎりを用意してふるまった」と楽しそうに語る。踊りもあり、内海さんはお囃子を担当したそうだ。
 昔話をするうちに大岩さんの土地にある三峯神社の祠が話題になる。竹内(熊)さんも「うちの裏山にもある」というと、「内田地区で三峯神社を祀っていると初めて聞いた。内田にも三峯講があったのかもしれない」と鶴岡さん。本社にあたる秩父の三峯神社は上総国から三山が美しく見えていたことから名づけられたというから可能性は高い。
 内田地区は木更津から一宮に出る道と、上総国府や千葉方面に抜ける道が交差する。小字の要害に中世の真ケ谷城跡があり、宿という地区もある。このあたりは古くは交通の要衝だった。「昔、成田の不動尊か真ヶ谷の不動尊かといわれるほど参拝者の多い不動尊があった」、「火の神様が火災になったということで廃れ、村人たちは不動尊の石段を持ち帰った。すると疫病が流行ったので、祟りだと恐れ石を戻した」という話が残るそうだ。確かなことはわからないが、出席者らは「真ケ谷不動尊が小字の滝谷にあり、火災になって、荒澤神社に祀られた。参道の階段に使われている石がそれだよと親たちから聞いた」という。現地を案内してもらうことになり、青年館近くの荒澤神社に行き、お堂の中をのぞくと正面に不動尊がある。「焼けたところからお預かりしているのは左側の仏様」だという。
 続いて訪れた太子堂寺はお堂だけが残る。お堂に祀られていた太子像は盗難にあったとされるが「立派な厨子が残っているので、盗難にあった仏像も相応のものだったのでは」と想像されている。太子堂寺本堂は昭和30年ごろには雨漏りや傷みがひどくなったので青年団などが解体した。子どもの遊び場になっていたがその後一部が墓地になったそうだ。竹内(利)さんは「大きな本堂はあの墓地の中ほどまであった。子どもの頃は本堂とお堂を繋ぐ渡り廊下の下で遊んだ」、大岩さんは「太子講という職人の集まりがあった」などと教えてくれた。
 鶴岡さんは「わからなくならないうちに、聞き取りで得た情報をもとに調査を重ねていきたい」と危機感を募らせる。地域の足跡を物語る信仰の拠り所も放置すれば里山同様に荒れていくからだ。

問合せ 鶴岡さん
TEL 080・5526・8133

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