めざせゴールデンスパイク!

市原市田淵の地層逆磁極期との境界が国際摸式地に?

 房総半島の陸地は、深海での堆積物がこの数百万年の間に急激に隆起してできたもの。ゆえに随所で巨大な地層が見られる。中でも今、最も注目を浴びているのが市原市田淵、養老川沿いで見られる断崖。新生代第四紀更新世の前期(約260万年前から)と中期(約78万年前から)の境目の地層を観察、研究しやすいことから、ユネスコの機関である国際地質科学連合が指定する国際模式地の候補地となっている。
 選ばれれば、その地にゴールデンスパイク(金鋲)が打ち込まれ、国際年代層序表に「チバニアン(千葉時代)」が登場することになる。『古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会』田淵ジオサイト研究・普及グループの堀内正貫さん(市原市在住、元高校地学教師)に話を聞いた。
 地質時代は、殻をもった生物が出現した古生代、爬虫類が栄えた中生代、哺乳類の栄えた新生代と生物の生存期間を基準に大区分されている。そして新生代第四紀の区分は、世界共通で起こる現象、気候変動と古地磁気をもとに区分の基準が設けられた。気候変動は、堆積した有孔虫の殻に含まれる酸素同位体の比率を調べ、古地磁気については、当時の磁極のまま堆積した鉄、ニッケルなどの鉱物を調査する。
 養老渓谷は、上流の古い地層から下流の新しい地層まで順に観察することのできる貴重な場所。都心に近いこともあり、かねてから様々な調査・研究が行われてきた。1940~60年代には天然ガスなど地下資源開発のための地質調査が、70年代には古地磁気についての調査が実施され、80年代には、約78万年前、長野県の古御岳火山の噴火時に火山灰が堆積してできた白尾凝灰岩層付近に逆磁極期との境界があることが判明した。方位磁針のSが北を、Nが南を指す逆転期『松山逆磁極期』と、現在と同じSが北を、Nが南を指す『ブリュンヌ正磁極期』との境目だ。そして2008年に開催された国際地質学会議で、第四紀更新世の前期と中期の境界の定義を『松山逆磁極期』と『ブリュンヌ正磁極期』の境界とすることが決定。最も観察しやすい田淵の地層が候補地にあがったというわけだ。
 ところで、地磁気は突然真逆になったわけではない。写真中の緑の印が現在と同じ磁極、赤い印が逆転していた時期、黄の印がついている層は磁極がふらふらしており、その中間的な向きであったとされている。「地磁気の逆転は繰り返し起こっていたようです。地磁気逆転期にオーロラが見えた、渡り鳥が迷ってしまうなどの話を聞きますが、はっきりしたことはわかっていません。可能性はありますが」と堀内さん。なお、地磁気逆転期の地層に方位磁針を近づけても針はふれない。現在の磁力の方が勝るからだという。
 ゴールデンスパイクが打ち込まれるには、地中海沿岸であること、大陸の歴史の長さや先例を考慮する歴史的先取権があること、など日本にとっては厳しい条件がいくつかある。現在の候補地は、ほかにイタリア半島の2カ所。歴史的先取権については、現在討議されている境界の前がカラブリアン、さらにその前がジェラシアンと2期ともイタリアから選ばれており、イタリアが有利といえる。
 田淵が優位に立ちうるポイントは、房総半島の地層堆積の速さにある。千年あたり2~4mの速度であり、イタリアでは千年あたり20㎝程度というから、より詳しい観察が可能といえる。白尾凝灰岩層がくっきりと見られるのも境界区分とするには好都合。1991年に来日したアメリカ地質調査所所長も田淵を絶賛していたとのこと。
 国際地質学会議は4年に1度開かれる。8月末から9月にかけての南アフリカでの会議において正式に市原市田淵を候補地として提案し、各種委員会による4回の投票を経て来年初めには国際模式地が決まる予定。田淵の崖へ続く道の入り口には日本とイタリアの国旗が仲良く並んでいる。国際模式地を巡り「友好的に競い合いましょう」とのこと。
 「候補地に決まるが決まるまいが、時代区分を特定する貴重な地層であることに変わりはない」と話す堀内さんは『ゴールデンスパイクの会』の会長でもある。同会のメンバーは現職の地学教師や会社員など15名。『古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会』と連携をとり勉強会を開いたり、見学希望者のための案内役も買っている。市立加茂学園の小6の児童を対象に勉強会を行ったことも。
 現地へのアクセスだが、田淵公民館の駐車場に車を停めて500mほど山道を下り川べりに立つと地層を見ることができる。見学は随時可能だが、堆積物の採取は私有地のため許可が必要。長靴必須。

問合せ 堀内さん
TEL 080・5053・6155

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