知ってほしい 農業がこんなにも人から切り離せないことを

 市原市在住の梅原彰さんが中心となって発足した市民団体『さざなみ会』が、今年3月『農業は生き方です ちば発 楽農主義宣言(新宿書房)』を刊行した。県職員だった梅原さんは現役だった頃、30年以上農業改良普及事業に携わり、配属された県内の事務所で多くの農家と交流を持ってきた。食卓に並んだ野菜を食べるだけの消費者に、生産者である農業従事者の『生の声』が届くことはほとんどない。
 「農家でも米や花、牛など育てるものによって違いがあります。それでも悩みやぶつかる壁は同じだったりするんです。彼らの生き方はとても興味深く、色んな人に知ってほしいと思いました」と話す梅原さんは、退職後の2013年、同じ志を持った仲間と4人で同会を立ち上げた。
 現役時代に交流した農家に原稿を頼んだり、自身がインタビューを行ったりして作った農業のミニコミ誌『漣(さざなみ)』は、年3回のペースで発行。2016年9月までに計10冊、約130人の記事が掲載された。同会の会員数は200名近くを数えるが、交流のあった農業者は年々リタイアしていく。農業者がいる限り決して題材が途絶えることはないが、「私自身、年3回ペースの刊行がきつくなってきた」ということもあり、『漣』の刊行は昨年に中止が決まった。
 脱サラをして初めて農業を始めた男性や、震災で千葉県へ移り住み肉牛の肥育を再開した男性。失敗談やアドバイスなど様々な視線からの熱い思いが詰まっている『漣』。「単純に農業の善し悪しが書いてあるわけではないんです。内容のほとんどは書き手にお任せしていましたので、読んでみると笑える話もありました。これは彼らの生き方そのものです」と続ける。そんな10冊に掲載された中からよりすぐりの話をまとめて作られたのが今回の『農業は生き方です』であり、まさに至極の一冊となっている。
 県外から田舎暮らしを求め移住してきて、農業をスタートする若者は多い。ただ、反対に農家の中には畑を止めて街へ働きに出て行ってしまうことも珍しくない。高齢化が進み、里山がイノシシの住処になり問題視されているのは周知の事実だ。「この本が農業に関心をもつきっかけになってくれたら嬉しいですね。大きな利益を出すには法人化して大量生産することが必要なのかもしれない。でも、大切なのは地域で作ったものをその土地で消費すること。そして自分でやりたいと考え、行動し、誇りを持つことです」と梅原さんは強く語った。
 長い間、近い場所から農業者を見てきたからこそ、彼らの強さを知った。この一冊が農業従事者への励み、そして農業に携わったことのない人々への新たな関心になることを心から願う。同本は県内、およびネット書店にて購入可能。詳細は問合せを。

問合せ 梅原さん
TEL 090・9961・6536

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