【市原】ハードボイルド小説家の原点を探る 作家 大沢 在昌さん

 3月20日(水)市原市勤労会館(youホール)で行われたのは、市原市立中央図書館主催の『平成30年度 文学講座 特別講演会』。直木賞作家である大沢在昌さんによる『ミステリーと私』と題した講演会には約260人の聴講者が集まり、約1時間半、会場は終始笑いに包まれた。
*  *  *

 

 1956年、愛知県名古屋市生まれの大沢さんは、1979年『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞を受賞し文壇デビュー。1991年の『新宿鮫』で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本推理作家協会賞長編部門を受賞した。その後、『無間人形 新宿鮫4』で直木賞、『パンドラ・アイランド』で第17回柴田錬三郎賞を受賞。2006年から3年間、日本推理作家協会理事長を務め、今年で作家生活40周年を迎える。講演では、作家の原点となったできごとや作家生活の難しさ、生み出してきた作品への思いが語られた。

 「愛知県で育ち、慶応大学在学中は都内で過ごした私ですが、勝浦市に別荘を持っていることで千葉県は第2の故郷だと思っています。市原市にも車で何度も訪れたことがあるんです」と話す、大沢さんの主な著書のジャンルはハードボイルド。覚せい剤などの麻薬を摘発する麻薬取締官の存在は、近年ニュースで耳にすることもあり広く知られているが、一般の警察官とは大きく異なるという。麻薬や拳銃と切り離せないそんな特殊な世界感を、いかにして学び作り上げたのか。
*  *  *

 新聞記者の父親をもち、常に家の中には本が溢れていた。「父は幼い頃に私の祖父を亡くし、子どもとの距離感が分からなかったそうです。そこで世界の名著をたくさん与えてくれました。おかげで私は小学校に上がる前から読み漁り、高学年になる頃には本を読んでいて怒られるほど」だったとか。次第に、アガサクリスティやエラリークイーンが描く海外の探偵小説に夢中になっていった大沢さん。そして出会ったのが、ウィリアム・P・マッギヴァーンの『最悪のとき』。市長や警察までもがギャングに染まった町で、元刑事の男が諦めることなく犯人を追及する内容に、大沢さんはそれまで読んだどの小説よりも面白く感動したという。
中3の時、日本のハードボイルドの先駆者である作家、故・生島治郎さんの小説に出会った。「日本でハードボイルドが通用するのか、海外小説の翻訳に多い一人称でなく三人称でも成立するか、とすぐに質問状を送りしました。便箋8枚に及ぶ返事をいただいたことが嬉しく、中学生から小説を書き始めた」というのだから、デビュー以前を含めた執筆歴の長いこと。

 23歳でデビューしてからは、当時流行していた様々なノベルスで出版を続けたものの、『新宿鮫』で脚光を浴びるまでは我慢の連続だったようだ。「父は私がデビューする1カ月前に亡くなったのですが、ずっと小説家になることを反対していました。作家になるのは難しいというのをよく知っていたのでしょう」と振り返り、「実際デビューしたものの、当時食べていくことは大変でした。周りの仲間が売れていくのに、自分の作品は注目されない。1年半かけて執筆した作品が重版されなかった時に、初めて感情が乱れました。難しいことを考えながら書くことはやめようと若干軽い気持ちで書いた作品が『新宿鮫』。半月も立たず重版、どんどん売れて驚きました」と続けた。下積み時代となった10年ほどを終え、その後はプレッシャーを感じながらも多くの、そして躍動感のある小説を生み出し続けてきた。

小説家としての重み

「人が残酷に死ぬけれど、熱い想いを秘め、あえて非情で冷たく見せるハードボイルドは日本人の心に最も合うジャンルだと思っています。顔で笑って、心で泣く。男より女の方が実はハードボイルドだと思うし、私は女性の心情が分かると思っているので主人公の男女比率は半々」と言う大沢さん。今では他の作家に類を見ないほどハードボイルドの世界に詳しいといわれるまでになった。今年の秋には100冊目の小説を出版予定だ。
「作家になるより、続けることが難しい。自分が傑作だと思っても、人が面白くなければ意味がない。すでにあるトリックを知らなかったといって盗作しては恥を見せるに等しい。作家志望は近年増え続けているが、たくさん本を読み知恵を振り絞って書き続けてください」と、熱く語った。

 来場者からは、「高校時代に年間千冊本を読んでいたそうですが、どんな習慣でできたんですか」、「勝浦で過ごしている時間が、作品に影響を与えていますか」などの質問が飛び、大沢さんは一つひとつに丁寧に答えていた。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. いつものにぎやかな音楽が聴こえると、それは移動販売車ピース号が来た合図。食品や日用品などを乗せて、週に1度、決まった場所へ決まった時間にやっ…
  2.  1945年8月15日の終戦の日、連合国軍機と交戦し墜落したとみられる零戦の機銃が、今年1月、大多喜町で発見された。遺族の依頼を受けた有志の…
  3.  以前にもこのコラムのなかで書いたことがあると思いますが、14世紀のヨーロッパでは、人口の約3分の1が生命を奪われた黒死病(ペスト)の大流行…
  4.  子供の頃、さわって遊んだ人も多いのではないでしょうか?里山や森の地面に2~3個並んでいるのを見かけるホコリタケというキノコ。ホコリタケとい…
  5.  6月12日(土)、黒田尚嗣さん(65)(ペンネーム『平成芭蕉』)の講演『世界遺産の旅~長崎、天草地方の潜伏キリシタン関連遺産群の旅』が開催…
  6.  日本の伝統文化として海外でも興味関心の高い折り紙。必ず一度は折ったことがあるだろう。一年の延期を経て今夏開催された東京オリンピックで、来日…
  7. メヒコの衝撃─メキシコ体験は日本の根底を揺さぶる 9月26日(日)まで 市原湖畔美術館  メキシコのスペインによる征服から500年、独立…
  8.  世の中、理不尽なことがたくさん起こりますが、それをどう捉えるかで人生の行く道が変わることがあります。目の前で起こっている理不尽なことは、今…
  9.  ボランティア団体『桜さんさん会』は今年4月23日、東京の憲政記念会館で開催された『第15回みどりの式典』で緑化推進運動功労者内閣総理大臣表…
  10. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. いつものにぎやかな音楽が聴こえると、それは移動販売車ピース号が来た合図。食品や日用品などを乗せて、週に1度、決まった場所へ決まった時間にやっ…

おすすめ商品

  1. SG-507 ユネスコ世界遺産 フィルム 名入れカレンダー

    世界の自然や遺跡を厳選 – 豪華版・ユネスコ世界遺産シリーズ 1-2月/マチュ・ピチュの歴史保護区…
  2. TD-288 卓上L・大吉招福ごよみ・金運 名入れカレンダー

    金運の黄色と金箔「金運上昇八卦鏡」のW効果!驚異の金運力!金運上昇八卦鏡。 風水で八卦鏡とは、邪悪…
  3. SG-951 卓上 デスクスタンド文字(SB-324)名入れカレンダー

    【人気商品】卓上名入れカレンダーの超ヒット商品! 高級感が漂うシンプルデザイン。重量感のある厚紙を…
  4. SB-103 金澤翔子作品集 名入れカレンダー

    気鋭の書家、金澤翔子さんによる書下ろし作品集。 先天性の障がいを持って生まれた少女が書と出会い、才…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る