人形に命を吹き込む 『人形劇すぎのこ』がつむぐ物語の世界【外房】

「ダメダメッ、沼の主がいるよ。行っちゃだめー」と、子どもたちが人形に向かって必死に叫ぶ。人形劇『やまなしもぎ』の一場面でのことだ。上演するのは、『人形劇すぎのこ』。山武市とその近隣の保育園・幼稚園・図書館などで、人形劇の上演や絵本の読み聞かせの活動を33年間続けている。平成31年度には、子どもの読書活動優秀実践団体として『文部科学大臣表彰』を受けた。

何もかもが手作り

『人形劇すぎのこ』の設立は、1986年。旧山武町教育委員会主催の人形劇教室にて、佐倉市立図書館の『おはなしきゃらばん』に人形の作り方や演技の指導を受けたメンバーが、人形劇団を旗揚げした。年ごとに演目を変え、「おおきなかぶ」「ブレーメンの音楽隊」「3びきのやぎのがらがらどん」などを上演してきた。
 毎年4月~9月が新しい演目の練習期間で、10月~3月は公演期間。公演期間後半から、団員の金子良子さんが翌シーズンの台本の構想を練り始める。それと同時進行で、代表の石渡葉子さんと金子さんが中心となりキャラクターをデザインし、人形・大道具・小道具の制作を開始する。登場人物のこの子は何歳で、性格はこんな感じ、顔はこうと、一人一人にイメージをふくらませ、大道具や小道具も団員の意見を取り入れながら作り上げていく。劇中ではキャスターのついた大道具でくるくると場面が変わっていくが、その制作にはメンバーの家族の応援も欠かせない。場面に合わせた効果音作りは、団員の鈴木美雪さんを中心に行う。
 現在7名のメンバーは、仕事や育児の傍ら活動している。年末年始以外は、毎週木曜夜6時~10時に練習や人形制作で必ず集まり、10月~3月には毎週末が公演予定で埋まる。荷物の搬出入もすべて自分たちの手で行い、少人数で代役がいないため、役を受けたら休むことはできない。「家族の理解と協力があって、続けることができています。非常に有難いです」と石渡さん。さらに、「練習では、セリフや動作について納得がいくまで話し合い、何度も何度もやり込みます。一緒にやっていると、あうんの呼吸が出来上がります」と続ける。
 公演先では毎年のように子どもたちが楽しみに待ち受けてくれているが、県立千葉盲学校もその1つだ。視力の弱い、または目の見えない子どもが、例えば象をどう認識するのか、教師の話を参考にして準備する。子どもたちには前もって人形を触らせて、イメージを持ってもらう。団員がハッと気づかされるような感想が聞けることも少なくないという。
 昨年10月の台風19号では山武市も甚大な被害を受け、練習拠点のさんぶの森中央会館が避難所になるなど、公演準備にも支障が出た。メンバーたちは自宅の長引く停電や練習日不足を乗り切り、公演スケジュールも辛うじて調整し直し、今シーズンの上演に臨むことができた。

子どもに物語の力を

12月21日(土)、東金市立東金図書館の『冬のおたのしみ会』で、『人形劇すぎのこ』の劇が上演された。演目は、ペープサート(紙人形劇)の『ふしぎなぼうし』と、『やまなしもぎ』。『やまなしもぎ』は、病気の母親のために3人兄弟の太郎・次郎・三郎が、食べればどんな病気でもよくなるという奥山のやまなしを取りに行く話で、約40分の作品だ。子どもたちにわかりやすいよう、元の話にはないキャラクターのキツネを進行役として登場させた。
 開場時間には劇団員が笑顔で子どもたちを迎え入れ、子どもたちはわくわくした様子で、順番に舞台の前に座った。人形が動き出し、物語が始まると、子どもたちはあっという間にその中の一員となった。太郎が「おら、行ってくる」と言うと、「いってらっしゃい、がんばってねー」と返す。子どもの「危ないから行っちゃだめ」との声に、次郎が「おら、おっ母のために気を付けてやまなしをとるだ」と言う。三郎の澄んだ声やばあさまの重厚な声音が響き、キツネの俊敏でおどけた動きが笑いを誘う。心地よい音楽も相まって、子どもたちは人形劇を堪能した。『すぎのこ』メンバーの「最上の形を子どもたちに」という心意気と、たゆまない努力が結晶となって、極上の物語の世界が今回も届けられた。
 劇団の活動に興味のある方は、連絡の上、まずは練習の見学を。



問合せ: 人形劇すぎのこ 石渡さん
TEL.0475・89・1106 金子さん
TEL.0475・89・0299

【公演中止のお知らせ】 3月28日(土)にさんぶの森文化ホールで開催予定の『第10回東日本復興支援チャリティー公演』は、中止となりました。

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