知っている

文と絵 山口高弘

 知人に週末の荒天を教えられて、「ああ知ってるよ」、つっけんどんに返してしまった。さっき僕も天気予報で見たのです。僕は後悔しました。たまたま先に知っていただけなのに、誰でも知りうる情報を、自分の持ち物みたいに示してしまった。ごめん、と謝りました。
 情報には価値があるから、知らないよりは知っている方がいい。たぶん太古の昔から、そしてこの現代だからこそ、なおさら。けれどそれをいいことに、「知らなかったの?」と得意顔で、相手よりほんのわずかでも優位に立とうとしてしまう人間の心。ちっぽけだ。ノロノロ運転の車を意味もなく追い抜いて、一瞬だけ勝った気になるのに似ている。
 風がまだ少し冷たい夜。本屋の駐車場でばったり弟夫婦と会いました。弟の腕の中で赤ん坊が、なかなか寝付けないその目をぱちくりさせている。僕が話しかけると、にい、と笑顔になって恥ずかしそうに顔を背けました。知らないことだらけの赤ん坊。これからどんな事を知らせていこうか。
 大雪の日に、弟夫婦は大きな雪だるまをこしらえて、赤ん坊と記念写真を撮りました。部屋に引き上げ暖をとっている、そのわずかな間に雪だるまはなくなりました。通りすがりの悪ガキたちが、いっせいに砕いてしまったのです。残ったのは雪だるまの土台、そして、瞳だったペットボトルの蓋でした。こんな話も、知らせる時が来るのかな。にい、と満面の笑顔で応じる赤ん坊に接していると、「まだまだ先の話だな」と思います。
 帰宅すると、犬が鼻を鳴らしてすり寄って来ました。雪の中でぶるぶる固まっていた体が、最近はよく動く。立派に花粉症みたいなくしゃみもしている。きっと本当に「知っている」のです。人間が気づくよりも早くから、春になっているよ、と。

☆山口高弘 1981年市原生まれ
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストを連載。

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