ふるさとの川をサケが戻る川に 瑞沢川に鮭の稚魚を放流する会【睦沢町】

 睦沢町の瑞沢川では毎年2月、サケの稚魚が放流される。『瑞沢川に鮭の稚魚を放流する会』主催によるもので、同会では12月中旬から一般の希望者とともにサケを卵からふ化させ飼育している。会は2011年3月の設立で、放流は今年で12回目。瑞沢川では以前から遡上するサケの報告例があったが、会が観察を始めてからは2015年から18年に4年連続で遡上が確認された。会は「太平洋岸でサケ回帰南限の町」を目指し、「子どもたちが、ふるさとはサケが帰ってくる自然あふれるまちだと誇れるように」と活動している。

サケを卵から育てよう!

サケの卵

 昨年12月12日、サケの卵の配布が睦沢町中央公民館で行われた。会場ではおそろいの黄色いウェアーを来たスタッフが次から次へと訪れる家族連れなどを出迎え、紙コップに分けた卵と飼育方法を書いた紙を手渡した。1人10粒程に分けられた卵は、それぞれ預けられた里親たちのもとでふ化し、2月の放流の日まで育てられる。同会会長の松本敏男さんは、「目玉の見える赤い卵からふ化して、白い稚魚の体が飛び出す感動を味わってほしい」と話す。

 

サケの稚魚

 町内のこども園や小中学校では、以前より子どもたちがサケの稚魚の飼育・放流の体験をしてきたが、昨年からは睦沢小学校の5年生が総合の授業でサケの飼育に取り組んでいる。町などからの助成金で子どもたち一人ひとりに飼育用の水槽やポンプを用意し、川の水質検査も行っている。2度目の参加となる近隣の公立小学校教師は、「昨年のクラスでは、子どもたちが給食で魚を残さなくなったなど大きな変化がありました」と話す。訪れた人たちの中には、「前回は放流を体験したので、今回は自分たちで育てたいと思い参加しました」という親子連れや、「川に戻って来るサケという魚を孫に教えたい」という祖父母の姿もあった。

 今回配布した卵は1万粒。松本さんが会に加わった10年前は2000粒だった。「当初は卵から育ててくれる人を探すのが一苦労で、隣近所や知り合いに無理やりお願いしていました。この10年でいろいろな縁が結ばれて、ネットワークが広がってきました」と振り返る。

稚魚の旅立ち

 稚魚の放流場所は、睦沢小学校裏の瑞沢川。2月13日、あいにくの雨にもかかわらず250人を超える参加者が大切に育てた稚魚を持ち寄り、寒い中順番を待って稚魚を放流した。翌14日には睦沢小学校の5年生が同じ場所で放流を行った。子どもたちは『サケもよろこぶ町にしよう』をテーマに学ぶ中で、自発的に川の掃除をしたという。「子どもたちが地元を誇れるように」と活動する会のメンバーにはうれしいニュースだった。

遡上したサケ

 体長3~5センチに育った稚魚は、尾をくねくねと動かし元気に泳ぐ。川の淵にしゃがみ込み水槽から稚魚を放つと、あっという間に水の中へ消えていった。子どもたちは、「卵から育てたのは初めてで、毎日楽しかった」「卵の観察をするときに光が入らないようにするのが大変だった」「もう少し育てたかった。いなくなってしまうのはさみしい」と、様々な思い出を抱きサケとの別れを惜しんだ。数日に分けて放流された稚魚は約8000匹を数えるが、産卵のために回帰するサケは放流した数の1%以下といわれる。会では11月、瑞沢川の自然観察をしながら遡上するサケを探す観察会も行っている。

今シーズンを終えて

 今年度の放流を終えて、「今年はいろいろな意味で今までにない成果が得られました」と、松本さん。2年程前に会の組織作りを行ったことで体制が充実。ホームページなどSNSを利用したイベントの告知で、より広範囲の人々に会の活動について知ってもらえるようになった。助成金を活用したのぼり旗やポスターなどで、道路沿いや店舗で町内や町を訪れる人々にも通年でアピールできた。

 町内では卵を育ててよかったという口コミが徐々に広がったことなどで、町民の参加者は倍増。最終的に放流に参加した人数は、スタッフも含めて430人ほどになった。松本さんは、「コロナ対策のために会場整備の打ち合わせを入念に重ねて、十分な受け入れ態勢を整えることが出来ました。町を挙げてのイベントで町おこしの意味合いも強まっています。会の結成からやってきたことの1つ1つがつながり、大きな実を結び始めたことが実感できました」と、感慨深げに語った。

 ホームページでは、会が年3回発行する『サケ通信』や過去に遡上したサケの動画などを観ることが出来る。卵の配布、稚魚の放流は参加無料。但し飼育には水槽・ポンプなどが必要。会員は随時募集中。会費は個人会員500円、家族会員1000円。詳しくはホームページか電話にて問合せを。

 

問合せ:瑞沢川に鮭の稚魚を放流する会

    松本さん Tel.0475・44・2289

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