人とまっすぐに向き合いながら教師の道を歩んできた

人とまっすぐに向き合いながら教師の道を歩んできた

 市原市鶴舞在住の古関しづさんはこの春93歳を迎える。人生を教師という職に捧げてきた。昭和12年春に高等女学校を卒業し、18歳で教師の道に進んだ。支那事変や廬溝橋事件を経験してきた古関さんは、昔を思い出すように目を細めて言う。「生まれは鶴舞、実家は専業農家だった。兄妹は7人で私は次女。教師を目指したのは、家の前を毎朝通る女性教師の凛とした袴姿に憧れたから」。満州事変や第二次世界大戦時には、自分が思う教師として職務の意に添わないこともあった。だが、退職するまで思い続けてきたのは、『生徒の気持ちを考え、子どもたちとともに歩むこと』だ。「それが、今も続いている教え子たちとの関係の結果となっているのかもしれない」と古関さんは続けて、現在も交流のあるかつての教え子の呼び名を何人も上げる。
 印旛郡の飯山小、成田市の遠山小、八生小、市原市の市西小や養老小、牛久小と長年に渡り数校へ赴いた。「教師を思い切りやってみようと決意して実家を離れた。自分で選んだ道ゆえに、病気になっても苦しくても泣き言を言わなかった。激しい雨音の中、一人布団にくるまって大泣きした夜もある」という。教室で講義をするだけではなく自分の目で様々なことを確かめようと、日曜日は研修会に費やした。少なからず能力に差が出る小学校の授業で、いかにクラスが一体化できるかを考えた。クラス全員をゲストにすることなく一人ひとりが認め合えるよう、手間ひまをかけて家族のような空間を創り上げた。そんな子ども達のことを記したノートは今でも捨てられず、古関さんの家の一室いっぱいに置かれている。
 現在、学校においての問題は教師と生徒、保護者を含めて議題にのぼることが多々ある。この状況を古関さんは「ゆとり教育が失敗したのは、ゆとりを実践できる教師を育てないのに開始したから。授業の内容に関してより、心のゆとりを育てることが必要だ。教師は現場が忙しいばかりを繰り返し、目の前の問題と向き合うことに逃げてばかりいる。世の中の経済事情や諸々は変わったが、なにより機械文明に頼りすぎる。もっと土の上で遊ばせるべき。子どもの世界に貧富の差がなくなり、みんなと同じでないと満足できない。物重視の世界に疑問がある」と話す。
 最近はご詠歌や詩吟のサークルに勤しみ、押し花で作った絵はがきも想像力が豊かだ。乳児に読み聞かせを行う文庫活動にも出向き、月1度は公民館で行われる『しいの木会』というお楽しみ会にも参加する。「祖母や母、先人の言葉は年とともに自身で実証されてくる。教え子たちは、私の何気ない一言が宝だと言う。学校で習ったことは、人生を積み重ねることで本当の意味を消化できるようになる」と続ける古関さんの重みある言葉を、芯まで理解できるようになる日はいつになるのだろう。

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