狛犬から六地蔵、馬乗り馬頭観音を訪ねて25年余
- 2013/4/19
- 市原版
狛犬から六地蔵、馬乗り馬頭観音を訪ねて25年余
町田 茂さん(市原市)
在職中は仕事ひと筋だったが、定年後は「石の芸術」ともいわれる狛犬を皮切りに房総の石仏を訪ね調査するようになった町田茂さん(83)。著書の『房総の馬乗り観音』は綿密な調査と、優れた観察力と分かりやすい表現で書かれた郷土の貴重な記録である。
◆何故、狛犬を見て回るようになったのですか?
「たまたま自宅の近くにある駒形神社に市原市内では石で造られた狛犬では最古のものがあると知って。ちなみに、木で作られた市内最古の狛犬は、飯香岡八幡宮にあります。で、暇つぶしに市内の狛犬を訪ねてみようかなと。歩くことで健康にもいいし、金もかからず年金生活者にはピッタリ(笑)。そのうち石仏に興味を持つようになりました」
◆そして、日本石仏協会や房総石造文化財研究会にも入会し、平成6年に『市原の庚申塔』、翌7年には『市原の馬頭観音』(2冊とも共著)、平成16年に町田さん個人の著書『房総の馬乗り馬頭観音』(たけしま出版)を発行。庚申塔とは中国から伝わった道教に由来する庚申信仰に基づいて建てられた石塔。馬頭観音は頭上に馬頭をいただいていることから、六道(地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天上)のひとつの畜生界を済度する(困難や苦労から救うこと)と言われ、馬の守護神として昔から広く信仰されています。馬乗り馬頭観音を調べたいきさつは?
「他の地域で石仏で多いのは庚申塔。でも市原では庚申塔229基に対して、馬頭観音は500基近くあった。その中で馬乗り馬頭観音は22基。馬乗り馬頭観音を初めて紹介した服部重蔵さんの著書『東総地方の石仏』により、馬乗り馬頭観音が千葉県独特の石仏で、東総地方にたくさん建立されていることは知っていた。当時、服部さんが発表した馬乗り馬頭観音は105基で上総地方のものは君津と木更津などの4基だけだった。でも、市原市内を調査した結果、意外に上総地方の馬乗り馬頭観音の存在が知られていないことに気づき、上総地方にはもっと馬乗り馬頭観音があるのではないかと思ったのが調べるようになったきっかけ。その後の調査で現在では県内だけで266基確認され、県外では25基確認されました」
◆『房総の馬乗り馬頭観音』には、県内の馬乗り馬頭観音が紹介されている。訪ねて写真を撮るだけでなく、個々の所在地や地図、銘文、建立年月日、寸法などに加えて、町田さんのコメントも添えられてある。この本を手に、馬乗り馬頭観音巡りをしたくなりますね。
「本を読んだ人から、ここにもあるよと教えてもらい追加したものは別紙に。楽しみながらやっているから、大変だとか苦労と思ったことはないですが、凡字の判読は難しい。建立年代は欠かせないから銘文の文字は必ず拓本をとって、読み間違えのないようにしています。ただ、2割ほど年代不詳のものもありました。また、調査の際には近所の人に何かまつわる話を聞くようにもしています」
◆狛犬についても、調査資料の作成や『市原市歴史と文化財シリーズ・歴史散歩 石造物から探る郷土の歴史』で、40人の参加者を案内されたとか。
「はい。その中で千葉県最古の狛犬を見に、長柄町の飯尾寺へ行きました。落語家の三遊亭円丈師匠が代表を務める『日本参道狛犬研究会』の皆さんを千葉の狛犬巡りに案内したことも」
◆一般に、狛犬は皆同じようなものだろうと思われていますが。
「いやいや、狛犬の魅力は、ひとつとして同じものがないこと。でも、昭和になって制作された狛犬は大量生産品で、どれも同じ。大正以前のものはすべて日本人の石工の手彫りで、尚かつ同じ石工でも同じものはない。一つずつ見ていくと面白い」
◆たしかに。町田さんの撮影した狛犬を見ると、頭が平らでお盆をのせたような「三度笠の狛犬」や「玉をくわえた狛犬」等々、色々な狛犬がいるのですね。
「はい。普通は、お座りしてる狛犬ですが、中にはお尻をちょっと持ち上げた形の狛犬(出雲型)や立っているものも。尻の形や尾の形だけ見ても面白い。それだけで狛犬巡りをしている人もいるほど。多種多様な造形様式が狛犬の魅力」
◆狛犬を見たことがあっても、そもそも狛犬とは何なのか?神社に奉納された空想上の守護獣像と説明されますが。
「本来は獅子・狛犬一対の形成で、向かって右が口を開いた角のない阿像で獅子。左が口を閉じた角がない吽像で狛犬。現在は総称し狛犬と呼ばれています」
◆ところで、今後また何か本を出される予定は?
「千葉県全域の六地蔵を調査し、現在1700基ほどのデータが手元にあるので、何かの形で残すようにしたいとは思うのですが、なかなかまとめられないのが実情です」
◆理事を務める日本石仏協会では、国内外の研修に参加されたとか。
「ええ。石仏の宝庫、中国へは10回。韓国など東南アジアへも。合わせて30回は行ったかな。最近は市内の菊間コミュニティセンターで陶芸をやっていますが、仏像ばかり作っています。この歳ですから傑作をというつもりはなく、仲間と楽しくやっています」